崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

Living Yellow

彷徨。

ある年代以上の「科学少年」だった経歴をお持ちの方なら。「さまよえる湖」、タクラマカン砂漠のロプノール湖の謎を解いた、スウェーデン人学者、スウェン・ヘディン氏の名前を聞いたことがないだろうか。たしか、彼の紀行文を教科書で読んだ記憶さえある。…

三人。

三人寄れば文殊の知恵、と聞くたびに。不謹慎にも、当方が、思い浮かべてしまうのが、あのトラブルつづきの高速増殖炉「もんじゅ」である。人間関係のはじまり、が二人から成り立つとすれば、三人とは「組織」のはじまりではないだろうか。そして、暴力がギ…

マンガ。

草森紳一、氏の御蔵書の中で、異彩を放つのが、文字通り、山となったマンガ本だ。その多くは資料としてでもなく、ひたすら読み続けておられていたとおぼしい。 当方が途中で投げ出してしまった、長期連載作品も多い。 『魔少年ビーティー』にはじまる、『ジ…

議論。

議論じみたことをするときは、ギャラリーがいた方が燃える。良い面を挙げれば、二人きりではふくらまない論点に、その場の雰囲気、「受け」によって気づかされ、論を発展させることが、できる。悪い面。人前での勝ち負けにこだわりすぎて、さまざまな自己矛…

唄。

「引かれ者の小唄」という言い回し。パーソナリティ交代を間近に控えた、笑福亭鶴光師と角淳一アナウンサーの『MBSヤングタウン木曜日』(70年代〜84年)放送中、四半世紀前の今頃の夜、ラジオで初めて耳にしたように記憶している。番組改編期を乗り切れ…

味。

殴られた後、血も出ていないのに、かすかに鉄の味を感じる。あの「味覚」は一体どこから来るのだろう。おかげさまで、義務教育を終えてから、久しく味わっていないあの味。今となってはどこか、懐しささえ覚える。 かつて、『宮本から君へ』(新井英樹先生、…

結末。

今はもうマンションになってしまった、とある劇場で『オブローモフの生涯より』(ニキータ・ミハルコフ監督、ソ連、モスフィルム、1979年、DVD有り)という映画を観たのはいつのことだろうか。流麗な音楽、陽光溢れる、美しい映像。疲れていたせいか、気が付…

文庫。

SF小説が読みたい盛りに、引っ越した先の町の図書館は立派だったけど。SFコーナーがなかった。前の町には、読み切れないほど、あったのに。しかし、『希望の原理』(エルンスト・ブロッホ、白水社)や朝雲新聞社刊行の戦史全集がずらりと並んだ、実に立…

中退。

中退者の方々の活躍で、まず有名なのが、タモリ氏、広末涼子氏を輩出した、早稲田大学であるが、その傍らで、こちらも、輝かしき中退・除籍者たちが出入りしているのが、東京外国語大学である。『浮雲』で言文一致体を構築した二葉亭四迷氏、ルポライターの…

都。

昔々、中高生の多くには、買う、買わないはともかく。マンガ以外にも、お気に入りの雑誌があったものだ。大人の方々からみたら十把一絡げで、後には「おたく」などと称されることになる、各ジャンルの中にも、それぞれライバル関係の雑誌たちがあった。男子…

昭和。

明治は遠くなりにけり。という言い回し、なかなか、まだ分からない。が、平成生まれのミュージシャンの方々の活躍を眺めるとき、ほんの少し、身近に感じる。 平成ナントカ、と聞くと少々、うさんくさい、新参者の匂いを感じたりもするのだ。 しかし、「團菊…

項目。

カメラに詳しい先輩に、カメラについての曖昧な質問をしたことがある。ふだん親切な先輩が、ぶすっと「百科事典、引いた?」と言った。図書館で平凡社の百科事典を引くと、あっさり、その疑問は解決した。それまで、百科事典を「実用」したことがなかったの…

太陽。

ボンカレーの看板、アメリカン・クラッカーなどなどを「懐古」する、70年代本として刊行された、『別冊宝島』のある一冊が人気を博して、もう四半世紀が経つ。 年若い友人と話していて、「あの浮ついた90年代の感じなんです」という言葉に絶句して、もう十年…

バンド。

小学校のころ、友人の「コピー」バンド(YMO、チープ・トリック)を手伝って以来、楽器は一切やらないくせに、大学卒業まで、バンド周辺にいた。古来、バンドは男の子のものであった。90年代に大きく変わった一時期はあったが。天才的な女性ベーシストか…

バベル。

古本屋に足を初めて踏み入れたのは、いつのことだろうか。 一番最近、あわてて入った古本屋で買った『研究社ビジネス英和辞典』(梁田長世編著、研究社、1998年)で、試みに。今世界を揺るがしている単語、subprimeを引いてみる。 <1.二級品の.…>。辞典…

夜明け。

昔、戦時下の日本映画の傑作、『人情紙風船』(1937年、DVD入手可能)の上映会に誘ってくれた先輩がいた。それが山中貞雄監督の最期の作品との出会いだった。 草森紳一、氏の御蔵書、『鞍馬天狗のおじさんは―聞書アラカン一代』(竹中労著、徳間文庫、1985…

夜。

草森紳一、氏の御蔵書の中の、『ヒミズ』 (古谷実、講談社、2002年)。105円の新古書店のシール付。これはモノとしてはビタ一文にもならぬ。カバーも折れている。市場においては、所謂、駄本である。 本作『ヒミズ』は、ゼロ年代初めの週刊ヤングマガジン(…

階段。

かつて、ギターをやっている若い人は、楽器店に行き当たるとなかなか素通りできず、周りの都合などお構いなく、試し弾きに興じたものだった。店員の方々も、滅多に「顧客」になどならない、そんな「お客さん」を黙って、暖かく遇していてくれていたような。 …

音楽。

当たり前すぎる話だが。紙に描かれた絵から音は出ない。音楽など夢物語、ロックにせよ、ジャズにせよ。いや、そんな暢気なことを思って、うかうかしているのは、当方くらいで。携帯、読書端末で読むマンガ、においては、すでにBGMの域を超えた、音楽、音…

のすたるぢい。

家のない人々は、近年さまざまな危険を避けて、終夜眠らず、荷を負いながら、ただただ歩き続けるのだ、とある人から聞いた。家を失う、ということは、必然的に絶えざる移動を引き起こす。間違っても、冬の路傍に水など撒く、ものではない。 草森紳一、氏の御…

積読。

ヤッターマン、実写版映画化の報には、若干違和感があったが。深田恭子さんのドロンジョさま姿が表紙を飾る、『映画秘宝』誌3月号を目にして、「これでいいのだ」とうなずいてしまった。さて、所詮は、憶測に過ぎないのだが、このドロンジョさま、のネーミ…

時の流れ。空の色。

メガホンを口にあて『恋愛論』『幸福論』を歌う椎名林檎嬢には間に合わなかった。しかし、白いドレスでピアノに向かい、弾き語る、『歌舞伎町の女王』には間に合った。 『レ・ミゼラブル』を観たことも読んだこともない。その作者ヴィクトル・ユゴーについて…

気力。

[ 草森紳一、氏の御蔵書の中にあった、本書『東京大地震史』。朝倉義朗著、日本書院発売。奥付には大正十二年九月二十八日印刷、同年九月三十日発行、とある。著者によるはしがきの日付は同年九月二十日。その年、その九月一日、関東大震災発生。十四頁にわ…

ダンス、ダンス。

ヤード・セールという言葉を本書『ぼくが電話をかけている場所』(レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳、中公文庫・品切中:表題作や、『大聖堂』など、もっとも重要な彼の短編作品は同じく村上春樹訳の中公文庫『Carver's Dozen レイモンド・カーヴァー傑…

立ち読み。

昔、行き付けの書店はいつも混雑していた。夕方の、マンガ棚など、本当に押し合いへし合いという状態だった。そんな中で、朝日ソノラマ版の『光る風』(山上たつひこ)とか、講談社全集版の『ガラスの脳』(手塚治虫)、そして『コンプレックス・シティ』(…

ノック。フック。パンチ。

ノックは。と振られて「無用」と答える方も多いだろう。しかし、思い浮かべるのがマリリン・モンローか。「パンパパカパーン」のマンガトリオの横山氏か。その方の「お里が知れる」振りである。それでは。 ノックの音が。と聞いたら。星新一氏の、「ノックの…

巨匠放浪。

スーさん。『釣りバカ日誌』シリーズでの、この呼び名がすっかり定着した感のある、三国連太郎氏。しかし、ひところまでは、あのざらついた16mmフィルムでのブローアップ、ネガポジ反転映像が記憶にこびりつく、原作、水上勉氏の傑作『飢餓海峡』(1965年)を…

大盛トンカツ。

泉にんにく、囲まれ天丼。子どものころ、聞いた『ブルーシャトー』(作詞:橋本淳、作曲:井上忠夫、ジャッキー吉川とブルーコメッツ)の替え歌、である。脚韻をいじったこの高等技術、たぶん元をたどると、黎明期の深夜ラジオ、最初期の腕利きハガキ職人の…

夢の小説。小説の夢。

宝石箱。 そんな賛辞しか思い浮かばない。一昔前の彦摩呂氏ではないが。久々に山尾悠子氏の短編集『夢の棲む街』(昭和53年、早川文庫)を取り出して、朝日を待ちながら読み終え、御蔵書の、同じく山尾氏の短編集『オットーと魔術師』(昭和55年、集英社コバ…

過失

当然、あの名曲が入っているはず、と思って買ったのに、しっかりとその曲だけは抜け落ちているということがある。T.REXであれば『20世紀少年』がないあのDVD、とか田原俊彦なら『抱きしめてTonight』(『教師びんびん物語』主題歌)が収録されていない、こ…

その先は永代橋 白玉楼中の人