崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

マンガ

不在。

氏の御蔵書、その中の数千冊にのぼる、マンガのリストをしばらく、眺めていて、ふと、あるマンガ家の作品が見つからない、のに気づいた。 業田良家先生。80年代中期、『AKIRA』(大友克洋先生)連載中の「ヤングマガジン」誌上、『ゴーダ君』を連載、本…

青年。

昔も今も。親の目を憚る、ごみ、というものはある。とっぷりと日も暮れた、塾帰りのガキどもは、そんな古雑誌を求めて、裏山や公園の茂みに連れ立って、「探検」に出かけたものだ。必ず、いろいろな「収穫」があった。多くはきっちりと、束ねられた、それら…

単行本。

私事だが、当方には。単行本はおろか、雑誌もなかなか捨てられないという悪癖がある。しっかり再生してもらった方が世のためになる、と分かっていても名残惜しいのだ。 草森紳一、氏の御蔵書、全てを精査したわけではなく、以下は雑駁な印象に過ぎない。ただ…

第二十六話。

稲森いずみさまと藤原紀香さまに、阿部寛氏が入り乱れる、フジテレビ、TVドラマ版『ハッピーマニア』については断片的にしか思い出せない。連載完結の数年前、20世紀末のドラマなので、原作と大枠で矛盾しない、オリジナルの「結末」が設定されている。ち…

不犯。

いま、このタイトル、を変換しようとして果たせなかった。ふぼん、と読む。宮本武蔵氏は生涯不犯、であったと伝えられている。つまり、早い話が、一生、女を抱かなかった、ということである。草森紳一氏の御蔵書にも残されていた、井上雅彦先生の渾身の作品…

声。

とある午後、ちょっとした悪さでもしでかしたのだろう。小学生、低学年だろうか、子どもを叱る声と泣いて謝る声が、窓の隙間から暫く流れ込んでいた。久々に聞く、子どもの泣きじゃくる声。聞くとはなしに聞いていたが、無事、お許しを得たらしく、ひっくひ…

怪。

草森紳一、氏の御蔵書中に本書『チャイナ・ファンタジー』(南伸坊、潮出版社、1990年、現在品切中)を見いだして。ブログ用にと持ち出し、そのまま逐電、とも思った。随分昔に、夏目房之介氏の御著書中に引用されていた、ほんの一コマで魅了されて以来、い…

月夜。

夜遊びなど、夢のまた夢の時分。帰り道、夕暮れの書店で、内田美奈子先生の繊細な線で描かれた『赤々丸』(ブッキング、にて復刻版入手可能)などを立ち読んでいた当時。「漫画サンデー」(実業之日本社)の原色中心の表紙、その上で飛び跳ねていた『まんだ…

夢。

学生時代の四畳半の夢を見た。昭和、の四畳半である。下駄箱で靴を脱いで2階へ上がっていった。廊下に出て驚いた。積み上がった本の山である。日頃愛想の良かった隣人達は一様に口を閉ざす。いくらなんでも、と見ていくと、全て身に覚えのある、本たちであ…

連絡。

いまだに、私事に一切メールを持ち込まない、知人がいる。会社を一歩出たら完全オフラインの彼からの電話はいつも、突然で、しかも長い。 草森紳一、氏がご愛読していた、とおぼしい、本書、『ゴルゴ13』(さいとう・たかを、「ビックコミック」(小学館)…

場所。

昔、仕事上の愚痴をこぼしていたら。その相手はこう言ってくれた。 「『750ライダー』のマスターがやっている喫茶店みたいな場所があればいいんですけどねえ」 750と書いて、ナナハンと読む。念のため。当方が「週刊少年チャンピオン」の立ち読みに興…

会社。

法人、という言葉がある。英語ではCorporation、となるらしい。しかし、このCorpoというあたりが「からだ」を原義とするようだ。抽象的な概念でありつつも、何か血の通った肉の匂いのする生々しさ、がどちらの言葉からも感じられる。 人身事故のアナウンスに…

マンガ。

草森紳一、氏の御蔵書の中で、異彩を放つのが、文字通り、山となったマンガ本だ。その多くは資料としてでもなく、ひたすら読み続けておられていたとおぼしい。 当方が途中で投げ出してしまった、長期連載作品も多い。 『魔少年ビーティー』にはじまる、『ジ…

味。

殴られた後、血も出ていないのに、かすかに鉄の味を感じる。あの「味覚」は一体どこから来るのだろう。おかげさまで、義務教育を終えてから、久しく味わっていないあの味。今となってはどこか、懐しささえ覚える。 かつて、『宮本から君へ』(新井英樹先生、…

海を越えるために

10年ちょっと前、タイ旅行から帰ってきた女の子から、おみやげに『ドラえもん』のタイ語版をもらったことがある。他になかったのか? と思いつつも、ぼくになら冗談が伝わると判断してくれたのだと考え直して、複雑な気持ちを抱きながらもありがたく頂戴。日…

都。

昔々、中高生の多くには、買う、買わないはともかく。マンガ以外にも、お気に入りの雑誌があったものだ。大人の方々からみたら十把一絡げで、後には「おたく」などと称されることになる、各ジャンルの中にも、それぞれライバル関係の雑誌たちがあった。男子…

太陽。

ボンカレーの看板、アメリカン・クラッカーなどなどを「懐古」する、70年代本として刊行された、『別冊宝島』のある一冊が人気を博して、もう四半世紀が経つ。 年若い友人と話していて、「あの浮ついた90年代の感じなんです」という言葉に絶句して、もう十年…

バンド。

小学校のころ、友人の「コピー」バンド(YMO、チープ・トリック)を手伝って以来、楽器は一切やらないくせに、大学卒業まで、バンド周辺にいた。古来、バンドは男の子のものであった。90年代に大きく変わった一時期はあったが。天才的な女性ベーシストか…

バベル。

古本屋に足を初めて踏み入れたのは、いつのことだろうか。 一番最近、あわてて入った古本屋で買った『研究社ビジネス英和辞典』(梁田長世編著、研究社、1998年)で、試みに。今世界を揺るがしている単語、subprimeを引いてみる。 <1.二級品の.…>。辞典…

夜。

草森紳一、氏の御蔵書の中の、『ヒミズ』 (古谷実、講談社、2002年)。105円の新古書店のシール付。これはモノとしてはビタ一文にもならぬ。カバーも折れている。市場においては、所謂、駄本である。 本作『ヒミズ』は、ゼロ年代初めの週刊ヤングマガジン(…

音楽。

当たり前すぎる話だが。紙に描かれた絵から音は出ない。音楽など夢物語、ロックにせよ、ジャズにせよ。いや、そんな暢気なことを思って、うかうかしているのは、当方くらいで。携帯、読書端末で読むマンガ、においては、すでにBGMの域を超えた、音楽、音…

立ち読み。

昔、行き付けの書店はいつも混雑していた。夕方の、マンガ棚など、本当に押し合いへし合いという状態だった。そんな中で、朝日ソノラマ版の『光る風』(山上たつひこ)とか、講談社全集版の『ガラスの脳』(手塚治虫)、そして『コンプレックス・シティ』(…

過失

当然、あの名曲が入っているはず、と思って買ったのに、しっかりとその曲だけは抜け落ちているということがある。T.REXであれば『20世紀少年』がないあのDVD、とか田原俊彦なら『抱きしめてTonight』(『教師びんびん物語』主題歌)が収録されていない、こ…

Sunday Morning

工事中の夜道や大型店舗の入り口で交通誘導をする方々の赤灯が、凍えそうな風の中、かすかな、ほの暖かさを感じさせてくれる季節になった。ふと『赤灯えれじい』(きらたかし、2000年代中期より『ヤングマガジン』(講談社)連載)のあの二人、交通誘導のバ…

その先は永代橋 白玉楼中の人