崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

ミステリ・SF

星。

当方のさえない、地方での学校生活のなかで、とにかく感謝しているのが、その学校図書館の充実ぶりであった。なんたって、『共同研究 転向』(思想の科学研究会、全三巻、平凡社)、革装の三島由紀夫全集(新潮社)まで揃っていた。そして、真新しいピカソの…

ほどよい科学と、ほどよい空想

未来を予測するというのは、むずかしいものだ。 たっぷり25年振りに、高千穂遙のクラッシャージョウ・シリーズの1冊を読んで、そんなことを考えた。 時は22世紀、ワープ航法の完成により、銀河系に広く進出して繁栄する人類。依頼に応じてどんな困難な仕事…

どんな本でも、必ず売れる

たいていの本は、読んでもらえさえすれば、おもしろいはずだ。少なくともぼくは、そう信じている。 もちろん、万人受けするような本は、まれだろう。でも、どの本にもそれなりに「おもしろい」と思ってくれる読者がいるはずで、ただそれが時には500人だった…

どんな本が読み継がれるのか?

エラリー・クイーン。なつかしい響きだ。 高校生のころ、せいぜい背伸びをして、まだ神戸は三宮の地方書店にすぎなかったジュンク堂の洋書売り場へ行ったら、Ellery Queenのペーパーバックがズラリと並んでいた。もちろん、本格推理の最高峰とされるその作品…

文庫。

SF小説が読みたい盛りに、引っ越した先の町の図書館は立派だったけど。SFコーナーがなかった。前の町には、読み切れないほど、あったのに。しかし、『希望の原理』(エルンスト・ブロッホ、白水社)や朝雲新聞社刊行の戦史全集がずらりと並んだ、実に立…

袋とじの中身

読み出したら、おもしろくてやめられなくなる本、というものがある。この先、どうなるのか? とにかくそれが知りたくて、食事の時間ももったいない。もちろん、寝てなどいられるものか! 「本好き」ならば、そんな経験をしたことがあるに違いない。 そうやっ…

5万年の孤独

読書とは、基本的に孤独な営みだ。 少なくとも、ぼくにとっては、そうである。おもしろいと思った本を、他人に勧めたことがあまりない。たまに勧めても、読んでもらえた経験も、あまりない。逆に、人から勧められた本も、めったに読まない。だから、いわゆる…

ノック。フック。パンチ。

ノックは。と振られて「無用」と答える方も多いだろう。しかし、思い浮かべるのがマリリン・モンローか。「パンパパカパーン」のマンガトリオの横山氏か。その方の「お里が知れる」振りである。それでは。 ノックの音が。と聞いたら。星新一氏の、「ノックの…

夢の小説。小説の夢。

宝石箱。 そんな賛辞しか思い浮かばない。一昔前の彦摩呂氏ではないが。久々に山尾悠子氏の短編集『夢の棲む街』(昭和53年、早川文庫)を取り出して、朝日を待ちながら読み終え、御蔵書の、同じく山尾氏の短編集『オットーと魔術師』(昭和55年、集英社コバ…

いろいろあった、あのころ

高校時代のぼくは、かなりのミステリ・マニアだった。でも、ジョルジュ・シムノンは例外だった。『黄色い犬』だけは読んだのだが、いまひとつ納得がいかなくて、そのままにしてしまったのだ。 メグレ警視のよさが分かるようになったのは、大学生になって東京…

その先は永代橋 白玉楼中の人