崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

2009-03-01から1ヶ月間の記事一覧

議論。

議論じみたことをするときは、ギャラリーがいた方が燃える。良い面を挙げれば、二人きりではふくらまない論点に、その場の雰囲気、「受け」によって気づかされ、論を発展させることが、できる。悪い面。人前での勝ち負けにこだわりすぎて、さまざまな自己矛…

蔵書をいったいどうするか(6)落胆から起き上がり、再び。

時は止まってくれない。川の風景も、季節とともに移り変わっていった。 11月に入ってからの見送りのご返事は、予想しなかったわけではないものの本当にショックだった。もともと7月末を締め切りに始めた蔵書整理だ。寄贈先との仲介をしてくださる人の希望で…

春の風の色

桜の「開花宣言」とやらが出されると、待ちかまえていたかのように冬将軍が舞い戻ってくる、この季節。 ハナニアラシノタトヘモアルゾ 「サヨナラ」ダケガ人生ダ 井伏鱒二の『厄除け詩集』の一節を思い出しながら、少し気合いを入れ直そうと、蔵書整理も「強…

唄。

「引かれ者の小唄」という言い回し。パーソナリティ交代を間近に控えた、笑福亭鶴光師と角淳一アナウンサーの『MBSヤングタウン木曜日』(70年代〜84年)放送中、四半世紀前の今頃の夜、ラジオで初めて耳にしたように記憶している。番組改編期を乗り切れ…

スリップ乱舞

草森紳一先生の蔵書の間には、いろいろなものが挟まっている。一番多いのは、古書店からの請求書。最初のころは、「支払いはきちんと済んでいるのだろうか」と心配になったものだが、その点は、きっちりされていたようだ。意外なものが、意外な値段だったり…

ステーションの日常

小津安二郎の『早春』という映画を見たのは、いつのことだったろう。よくは覚えていないのだが、毎朝、同じ時刻の電車に乗って、東京の大手町あたりの職場へ通うサラリーマンたちの物語だった。ぼくにとっては、たいていは帰省の旅の出発点である東京駅が、…

味。

殴られた後、血も出ていないのに、かすかに鉄の味を感じる。あの「味覚」は一体どこから来るのだろう。おかげさまで、義務教育を終えてから、久しく味わっていないあの味。今となってはどこか、懐しささえ覚える。 かつて、『宮本から君へ』(新井英樹先生、…

NO MORE BOOKS ! 6 処女航海

こんなに爽やかな命日は想像していなかった。 お金では買えない快晴と、献花のために集められた青い勿忘草、 BGMはハービー・ハンコックの「処女航海」で、ビールはハイネケン。 故人の親しんだ川を眺めて、心地良く流れる時間をくつろいで下さった30名…

1年が過ぎて

今年の春分の日は、3月20日。本来なら、蔵書整理プロジェクトの作業日にあたる金曜日ですが、祭日ですから、さすがにお休み。いかにも春分の日らしい、うららかな1日を、ゆったりと過ごしました。 草森紳一先生がお亡くなりになられてから、1年が経ちまし…

おもしろい理由

父が医者だったこともあって、ぼくは基本的に「科学の子」だ。霊的なものや超常現象などをハナから認めない、というわけではない。ただ、ぼく自身は、そういった分野にはあまり興味がないのだ。 でも、めぐり合わせとか、運命のいたずらといったことなら、話…

結末。

今はもうマンションになってしまった、とある劇場で『オブローモフの生涯より』(ニキータ・ミハルコフ監督、ソ連、モスフィルム、1979年、DVD有り)という映画を観たのはいつのことだろうか。流麗な音楽、陽光溢れる、美しい映像。疲れていたせいか、気が付…

蔵書をいったいどうするか(5)まだまだ流浪の日々が……

本の行く先を探すことは、今どき至難だ。草森紳一の蔵書整理を始めた6月以来、さまざまな方にご意見を伺ったが、そもそも東京には、場所がない。文学館や図書館も飽和状態だ。たとえ受け入れが可能になっても、すでに同じ本が所蔵されていれば、その本は省…

ポケットに刑法を突っ込んで

『新律綱領改定律例改正条例伺御指令袖珍対比註解』。 きちんと書名を書くとなると、漢字ばかり22コも並んで、こんなにタイヘンなことになってしまう。奥付によれば、安井乙熊著、1878(明治11)年、同盟舎刊の本である。 この長ったらしい書名は、4文字ず…

文庫。

SF小説が読みたい盛りに、引っ越した先の町の図書館は立派だったけど。SFコーナーがなかった。前の町には、読み切れないほど、あったのに。しかし、『希望の原理』(エルンスト・ブロッホ、白水社)や朝雲新聞社刊行の戦史全集がずらりと並んだ、実に立…

春宵一刻

今週は、金曜日4名、土曜日3名の参加。入力済みの本は2万1261冊。段ボール箱にして504箱。ついに500箱に到達しました! 記念の500箱目は「マンガ」の箱。土曜日参加の3人で、ささやかながら、喜びを分かち合いました。 この作業に取りかかったのが9月の…

海を越えるために

10年ちょっと前、タイ旅行から帰ってきた女の子から、おみやげに『ドラえもん』のタイ語版をもらったことがある。他になかったのか? と思いつつも、ぼくになら冗談が伝わると判断してくれたのだと考え直して、複雑な気持ちを抱きながらもありがたく頂戴。日…

中退。

中退者の方々の活躍で、まず有名なのが、タモリ氏、広末涼子氏を輩出した、早稲田大学であるが、その傍らで、こちらも、輝かしき中退・除籍者たちが出入りしているのが、東京外国語大学である。『浮雲』で言文一致体を構築した二葉亭四迷氏、ルポライターの…

情報の値段

うわぁっ! その雑誌の裏表紙を見た瞬間、ぼくは思わず、悲鳴に近い大声を上げていた。Living Yellow氏と東海晴美さんが、何ごとかといったような目で、こちらを見る。 いや、なんてことないんですよ。ただね、びっくりしたんですよ。 草森先生の蔵書の中に…

都。

昔々、中高生の多くには、買う、買わないはともかく。マンガ以外にも、お気に入りの雑誌があったものだ。大人の方々からみたら十把一絡げで、後には「おたく」などと称されることになる、各ジャンルの中にも、それぞれライバル関係の雑誌たちがあった。男子…

NO MORE BOOKS!5 入力ランニング

なんでもごきげんにやれることって素晴らしい。 蔵書の入力も2万冊を突破したとか。 蔵書の片付けに参加して下さっている方々の、そこに見出す たのしみの形はそれぞれ違っているのかもしれないが、わくわく 嬉々と何かに取り組んでいる人の姿は見ているだ…

2万冊突破!

金属製の屋根にたたきつける雨粒の音が、建物全体に共鳴して、ゴオッと重く低い響きを立てる。暗くさみしい海の底へ、ゆっくりと沈んでいく潜水艦の中にいるような、金曜日の午後。 かと思えば、くもりガラスの窓から射し込む春の日差しが、何やらものうげだ…

手書きの文字を前にして

まだまだ十分にうぶだったころ、年上の女性から年賀状をもらって、その字の美しさに、あっというまに恋に落ちてしまったことがある。また、ある文学館でお気に入りの作家の自筆原稿を目の当たりにして、なんだかちょっと幻滅してしまったこともある。 手書き…

昭和。

明治は遠くなりにけり。という言い回し、なかなか、まだ分からない。が、平成生まれのミュージシャンの方々の活躍を眺めるとき、ほんの少し、身近に感じる。 平成ナントカ、と聞くと少々、うさんくさい、新参者の匂いを感じたりもするのだ。 しかし、「團菊…

蔵書をいったいどうするか(4)行く先は北海道?!

2008年の夏は、あっという間に過ぎ去った。 猛暑と、ゲリラ豪雨と、はてしない本の量の思い出を残して。 一時うだるような暑さにボランティアの人数も半減してしまったけれど、気合のラストスパートで、約3万冊(これがはっきりわからない)の整理は8月2日…

袋とじの中身

読み出したら、おもしろくてやめられなくなる本、というものがある。この先、どうなるのか? とにかくそれが知りたくて、食事の時間ももったいない。もちろん、寝てなどいられるものか! 「本好き」ならば、そんな経験をしたことがあるに違いない。 そうやっ…

項目。

カメラに詳しい先輩に、カメラについての曖昧な質問をしたことがある。ふだん親切な先輩が、ぶすっと「百科事典、引いた?」と言った。図書館で平凡社の百科事典を引くと、あっさり、その疑問は解決した。それまで、百科事典を「実用」したことがなかったの…

電車の中でも思わず…

ひっそりと静まりかえった作業場。キーボードを叩く音に交じって、時折、ピーッ、ピーッと、何やらかん高い電子音が聞こえてきます。 その音源は、バーコードリーダー。カバーに印刷されているバーコードを読み取ることによって、その本のISBNコードを一瞬で…

その先は永代橋 白玉楼中の人