崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

NO MORE BOOKS !

NO MORE BOOKS! 14 音更の空気を吸って本達は体を伸ばした

約一年と四か月ぶりに寄稿させて頂きます、というのも、十月初旬にたった一泊ですが蔵書の寄贈先となった帯広大谷短期大学を訪問し、開館前の新しい図書室と、残りの本の新しい保管先となった廃校(東中音更小学校)の様子を一番乗りで見学してきました。 私…

NO MORE BOOKS ! 13 陶淵明 番外編  −漫画『桃源記』

以前に3回連続で、『170 CHINESE POEMS』という洋書の中からT'AO CH'IEN 作「SUBSTANCE, SHADOW, AND SPIRIT」という詩をご紹介した。英訳で初めてこの詩と出会ったのでオリジナルの漢詩について何の知識もなかったけれど、陶淵明の「形影神」だと教わり原…

NO MORE BOOKS! 12 十七歳の筆跡(その二)

明治文学、講義。この前の続きから本を開きます。 ちょっと飛んでp15。 ≪元来中國文學の飜譯はすでに奈良朝から起つているが、歐洲文學は近世初頭であり、アラビアンナイトの斷片やイソップは徳川時代の説話や假名草子に現はれてをり、明治以降になると、…

NO MORE BOOKS ! 11 十七歳の筆跡 (その一)

父の蔵書には、線がいっぱい引っぱってある本が多い。だから「どちらにしろ古本屋では売れないわね」と母が残念そうに言った。でもこの線の引かれた跡をみていく事が、私としてはかなり楽しい。そこに生きている父が甦って来る気がするから。目録の入力が終…

NO MORE BOOKS ! 10 モデル

「写真家・草森紳一」を紹介するWEB連載が、「白玉楼中の人 草森紳一記念館」で大竹昭子さんの文章と共に始まりました。‘撮る人・草森紳一’に一筋の光が当てられると、私は同時に‘撮られる人・草森紳一’の存在に心が傾く。 「兄は憧れだったんよ。東京から帰…

NO MORE BOOKS ! 9 『170 CHINESE POEMS』(下)魂より、肉体と影へ

英語の詩と本来の漢詩とを詳しく見比べるとすぐわかるのは、やはり意味の違う表現をしている箇所が多々あること。そこで最終回は、英語の詩を訳すことをベースに、漢詩とその日本語の解釈を参照しながら私の言葉で意味を補った折衷案になりました。もはやこ…

NO MORE BOOKS ! 8 『170 CHINESE POEMS』 (中) 影から肉体へ

前回の詩は、陶淵明(365-427年)の「形影神(けいえいしん)」だと教えて頂いた。 陶淵明は生涯の大部分を廬山(ろざん)の庵で過ごし、一般的には‘田園詩人’とか‘孤高の隠者’として知られる。その中でも49歳の時に書かれたこの詩は、淵明の思想的成熟や死…

NO MORE BOOKS ! 7 『170 CHINESE POEMS』 (上) 物質から影へ

蔵書の中には中国語の原書がかなりあって、倉庫に移す前から父のマンションの廊下の本棚をびっしりと埋め尽くしている様子は、見ると今にもそこからガヤガヤとチャイニーズな本達の騒々しいお喋りが聞こえてきそうだった。 それと比べればわずかな量だが、蔵…

NO MORE BOOKS ! 6 処女航海

こんなに爽やかな命日は想像していなかった。 お金では買えない快晴と、献花のために集められた青い勿忘草、 BGMはハービー・ハンコックの「処女航海」で、ビールはハイネケン。 故人の親しんだ川を眺めて、心地良く流れる時間をくつろいで下さった30名…

NO MORE BOOKS!5 入力ランニング

なんでもごきげんにやれることって素晴らしい。 蔵書の入力も2万冊を突破したとか。 蔵書の片付けに参加して下さっている方々の、そこに見出す たのしみの形はそれぞれ違っているのかもしれないが、わくわく 嬉々と何かに取り組んでいる人の姿は見ているだ…

NO MORE BOOKS! 4 最後の長電話

今日は父の誕生日です。 最後に話したのは、ちょうど一年前の二月二日の電話だった。 「お父さんもうすぐ70才だね」と私が言うと「70か!アハハ」と その年齢に自分で呆れたように屈託なく笑っていた。 五十代で既に老いを感じ始めたという周りの編集者…

NO MORE BOOKS!3 優しい眼

このブログのメインテーマ「蔵書」から少し脱線したくなった私は、 父の顔を描いてみようと思い立った。写真を参照しながらかき始めたけれど、 不安定な輪郭線や目鼻口をなかなか絶妙な位置に引くことができず、 ひとまずこの辺でギブアップしました。 小さ…

NO MORE BOOKS ! 2 父とお姫さまとマクドナルド

私は買ってもらったのに読めなかった本がたくさんある。 その中でもぼんやりと当時をよく思い出すのが、 『お姫さまとゴブリンの物語』『カーディとお姫さまの物語』 (マクドナルド作/岩波少年文庫)だ。 ある日小さな私は、父が真剣かつ集中した顔つきで『…

NO MORE BOOKS! 1 目録に感動

本がなくても生きていけます、草森紳一の娘は。 私はたくさんの本に囲まれて育った。 幼い私に与えられる最優先の栄養は、本と映画や舞台などの芸術鑑賞だった。 けれど大人になった私は「本」の世界にどこかパタッと回路を閉ざしている。 友達の中でも本好…

その先は永代橋 白玉楼中の人