崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

2009-04-01から1ヶ月間の記事一覧

旅へいざなうDNA

中国文学の先生方は、中国旅行がお好きだ。春休みや夏休み、そしてゴールデン・ウィークまで、何人もの仲間やお弟子さんたちと連れだって、やれ江南だ、やれ四川だ、やれシルクロードだと、はるばると旅にお出かけになる。中国旅行歴数十回という先生も、け…

連絡。

いまだに、私事に一切メールを持ち込まない、知人がいる。会社を一歩出たら完全オフラインの彼からの電話はいつも、突然で、しかも長い。 草森紳一、氏がご愛読していた、とおぼしい、本書、『ゴルゴ13』(さいとう・たかを、「ビックコミック」(小学館)…

NO MORE BOOKS ! 9 『170 CHINESE POEMS』(下)魂より、肉体と影へ

英語の詩と本来の漢詩とを詳しく見比べるとすぐわかるのは、やはり意味の違う表現をしている箇所が多々あること。そこで最終回は、英語の詩を訳すことをベースに、漢詩とその日本語の解釈を参照しながら私の言葉で意味を補った折衷案になりました。もはやこ…

第2部、ついに完結。

731箱、3万1618冊。 まだ夏の香りが残る9月の最終週から始まった「草森紳一蔵書整理プロジェクト第2部」も、思いがけない惜春の嵐に見舞われた今週、金曜日5名、土曜日9名(別働隊1名含む)のご参加を得て、ついに完結の時を迎えました。トータル29週…

輝く星のごとく

「星の一つ一つを数えるような仕事。その一つをも見落すまいとする態度。」 そんな姿勢で「物故人名事典」の編纂を開始した東京美術の編集部は、しかしそれが「大変な企て」であることを思い知る。近代日本にわずかでもその輝きを放ち、やがて消えていった無…

場所。

昔、仕事上の愚痴をこぼしていたら。その相手はこう言ってくれた。 「『750ライダー』のマスターがやっている喫茶店みたいな場所があればいいんですけどねえ」 750と書いて、ナナハンと読む。念のため。当方が「週刊少年チャンピオン」の立ち読みに興…

どんな本が読み継がれるのか?

エラリー・クイーン。なつかしい響きだ。 高校生のころ、せいぜい背伸びをして、まだ神戸は三宮の地方書店にすぎなかったジュンク堂の洋書売り場へ行ったら、Ellery Queenのペーパーバックがズラリと並んでいた。もちろん、本格推理の最高峰とされるその作品…

会社。

法人、という言葉がある。英語ではCorporation、となるらしい。しかし、このCorpoというあたりが「からだ」を原義とするようだ。抽象的な概念でありつつも、何か血の通った肉の匂いのする生々しさ、がどちらの言葉からも感じられる。 人身事故のアナウンスに…

NO MORE BOOKS ! 8 『170 CHINESE POEMS』 (中) 影から肉体へ

前回の詩は、陶淵明(365-427年)の「形影神(けいえいしん)」だと教えて頂いた。 陶淵明は生涯の大部分を廬山(ろざん)の庵で過ごし、一般的には‘田園詩人’とか‘孤高の隠者’として知られる。その中でも49歳の時に書かれたこの詩は、淵明の思想的成熟や死…

いよいよあと1週!

昨晩、家へ戻ってきて、早速、USBメモリに移していただいたみなさんの作業ファイルを開いて、集計を始めました。なんとか連休前に入力を終えるべく、今週も「強化週間」を断行。水曜日2名、木曜日1名、金曜日5名、土曜日8名のご参加で、作業は690箱まで…

雑誌の付録がアツイぞ!

近ごろ、雑誌の付録がアツイらしい。なんでも「女性誌」なるものには、ブランド物の折りたたみ傘やミニバッグ、ビーチサンダルからはてはガーターベルトまでが付録として付いてくるというウワサだ。付録を呼び物として売り上げ部数を伸ばそうと、“付録合戦”…

ランディ・バース上院議員(オクラホマ州議会、民主党)。

1985年10月16日。大阪。阪神タイガース、実に21年ぶりのセ・リーグ優勝。熱狂の中、ケンタッキー・フライドチキン店頭のカーネル・サンダース(サンダース大佐)の像が、「バースに似てるやん」と誰か、が言い出したのだろう、胴上げの栄に浴し、ついでに道…

蔵書をいったいどうするか(7) 蔵書ブログと草森紳一HP、開設す!

週末には、電車を乗り継いで「秘密のアジト」に向かう。 まあ、そんな気分。 そこで、3万冊余りの草森紳一の本たちを見上げ、彼らの運命を考える。 草森文庫創設が見送りとなった11月半ばから、目録の入力作業にブログの打ち合せが加わった。ああでもない、…

人はなんのために働くのか

阪神淡路大震災のとき、ぼくの実家は震度7の地域にあったから、2晩くらいは両親と連絡がとれず、安否もわからなかった。ようやく電話がつながったとき、当時は現役の外科医だった父が、「この3日間、縫いまくった!」と、こちらの心配をよそに興奮しまく…

吶喊。

とっかん、と読む。明治期の日本帝国陸軍では「吶喊!」と将校が号令し、それに続いて兵たちが「ウワー」とときの声をあげて、突撃する。転じて、「突貫工事」の「突貫」もここから来たようである。遅くとも昭和期には「突撃!」という号令に変わっていたら…

花は盛りに

今年は例年になく長かった桜の季節も、東京ではとうとう終わろうとしています。みなさん、お花見はいかがでしたか? わが蔵書整理プロジェクトの面々も、昨日、土曜日の晩に飛鳥山公園で遅ればせながらのお花見をいたしました。 今週は、金曜日5名、土曜日…

白夜の草原をゆく

神津恭介といえば、推理作家・高木彬光の生んだ名探偵だ。かつて、「土曜ワイド劇場」で近藤正臣の当たり役だったのをご記憶の方も多いだろう。 その神津恭介が、歴史上の謎に挑んだのが、『成吉思汗の秘密』(1958年。現在は光文社文庫で入手可能)。ジンギ…

彷徨。

ある年代以上の「科学少年」だった経歴をお持ちの方なら。「さまよえる湖」、タクラマカン砂漠のロプノール湖の謎を解いた、スウェーデン人学者、スウェン・ヘディン氏の名前を聞いたことがないだろうか。たしか、彼の紀行文を教科書で読んだ記憶さえある。…

ヨーグルトの作り方

子どものころ、遊びから帰ってきて家の冷蔵庫を開けると、なぜだかよく、カルピスがあった。ガラスのコップに氷を2、3個入れて、茶色いビンに入ったとろとろしたカルピスを指2本分くらい注ぐ。蛇口をひねって水道の水で薄めたら、人差し指でぐるぐるっと…

三人。

三人寄れば文殊の知恵、と聞くたびに。不謹慎にも、当方が、思い浮かべてしまうのが、あのトラブルつづきの高速増殖炉「もんじゅ」である。人間関係のはじまり、が二人から成り立つとすれば、三人とは「組織」のはじまりではないだろうか。そして、暴力がギ…

NO MORE BOOKS ! 7 『170 CHINESE POEMS』 (上) 物質から影へ

蔵書の中には中国語の原書がかなりあって、倉庫に移す前から父のマンションの廊下の本棚をびっしりと埋め尽くしている様子は、見ると今にもそこからガヤガヤとチャイニーズな本達の騒々しいお喋りが聞こえてきそうだった。 それと比べればわずかな量だが、蔵…

お花見気分に背を向けて

春爛漫。街を歩くと、入学式に向かうとおぼしきういういしい親子連れや、明らかに入社したばかりの、スーツ姿もどこかぎこちない若者を見かけます。東京の桜も、ようやっと満開。いい季節を迎えました。 そんな中、わが蔵書プロジェクトは、何を思ったか今週…

悔やみも、落胆もしない

1945(昭和20)年2月25日夜、東京は神田、錦町から小川町界隈を、空襲が襲った。このとき、諸橋轍次『大漢和辞典』全13巻(大修館書店)の組版・資材一切が灰燼に帰したことは、出版史上、有名な話だ。当時、同書は第2巻の刊行を目前にしていたが、米軍機…

マンガ。

草森紳一、氏の御蔵書の中で、異彩を放つのが、文字通り、山となったマンガ本だ。その多くは資料としてでもなく、ひたすら読み続けておられていたとおぼしい。 当方が途中で投げ出してしまった、長期連載作品も多い。 『魔少年ビーティー』にはじまる、『ジ…

愛でも憎しみでもなく

たった一言なのに、相手の心に深く残って、生涯を大きく変えてしまうことば。そんなことばがあるとしたら、それは、愛のささやきだろうか、怒りのおたけびだろうか。それとも、憎悪の捨てゼリフだろうか? 土岐善麿(ぜんまろ)が石川啄木に出会ったのは、19…

その先は永代橋 白玉楼中の人