崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

連絡。

 いまだに、私事に一切メールを持ち込まない、知人がいる。会社を一歩出たら完全オフラインの彼からの電話はいつも、突然で、しかも長い。

 草森紳一、氏がご愛読していた、とおぼしい、本書、『ゴルゴ13』(さいとう・たかを、「ビックコミック」(小学館)誌上にて、1968年より現在まで連載中、単行本刊行、リイド社)。一種、習慣性になる魅力を長年にわたり維持している、名作の一つである。麻生太郎首相から、東野幸治氏まで、その愛読者層は幅広い。「アメトーク」、などによると、日本中の床屋さんに、もっとも高い確率で常備されているマンガでもあるらしい。
 さて。カパ、と誰もいないホテルの一室で、彼、デューク東郷氏があの鞄を開くとき。その中には大概、M16(かつての、米軍の制式装備自動小銃)を改造した、彼の愛銃が分解されて、収まっている。新幹線の窓越しの標的にさえも、正確な狙撃をやってのける彼だが、ノート・パソコンを、新幹線の中で。カパ、と開ける、太い神経は持ち合わせていないようである。たとえ、Hotmailであれ、彼のメールアドレスを手に入れてしまったら。依頼人が後ろに立っただけで、「命の保障はできない」と。いきなり手刀を叩き込みかねない、彼のことだ。どんな目にあうやら。
 そんな彼への連絡を。何のコネクションもない、一見さんが行う時は、なんとかして。まず、アメリカ合衆国の某刑務所のある終身服役囚の方に連絡をとるのだ。すると、その囚人さんはあるラジオ局のある番組にある曲をリクエストしてくれる。そして、その曲を合図に。しばらくするとニューヨーク・タイムズに、あるトラクターについての広告が載る。それを。彼が読んでくれるはずだ。これが一番、正統的で確実な方法だそうだ。
 つまり。少なくとも、デューク東郷氏は。何らかの形で、紙版のニューヨーク・タイムズを購読し、かつ、迂回に迂回を重ねてはいるだろうが、その物品販売広告欄を常に一コマは確保していることになる。ということは。ニューヨーク・タイムズの広告営業担当さんを押さえることは、彼への重要な連絡路を把握することになるのだ。
 現在、経営危機が伝えられている、ニューヨーク・タイムズ。だが、小学館が健在なかぎり、自力復活は近いだろう。何たって、彼が許すわけがない。ホワイトハウスともクレムリンとも対等に渡り合ってきた、彼のことだ。しかし、小学館がもしも。
 「ズキューン!」
 銃声を聞いたような瞬間。胸元に突然感じた、灼熱した感触。薄れゆく意識の中、唇が空しく動いた。
 リイド社もあったか…
 みなもと太郎先生の『風雲児たち 幕末編』リイド社から、ゴホ、発売中…

その先は永代橋 白玉楼中の人