崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

円満字二郎

つむがれ続ける物語

遅ればせながら、明けましておめでとうございます。 年末から年始にかけて、厳しい寒さが続いていますね。日本海側にお住まいの方々、大雪は大丈夫でしょうか? ここ練馬でも、年が明けてからは毎日のように、氷点下の冷たい朝が続いています。 寒さ、という…

電車にのって本屋さんへ行く

久しぶりに都会へ出る機会があったので、1週間ぶりに電車にのって池袋まで行って、本屋さんをのぞいてみました。目的はもちろん、草森紳一『文字の大陸 汚穢の都――明治人清国見聞録』(大修館書店)です。 といっても、買い求めようというわけではありませ…

730回の夜と朝

草森先生がお亡くなりになってから、まる2年。たった730回、夜と朝との交替を見送ってきただけとは思えない、濃密な時の流れでした。 夏の花火をともに見上げ、冬の寒さをともにしのいだ蔵書整理プロジェクトの仲間たちも、それぞれの生活へと戻っていきま…

十勝平原再訪記(後編)

本はなんのために存在しているのか? それはもちろん、読まれるためでしょう。どんなにいい素材を使って、美しく仕上げられた本でも、読まれなければ意味がない。別に隅々まで熟読して欲しいというわけではありません。だれかが開いてみて、なにかを感じ取っ…

十勝平原再訪記(前編)

そこでは、時間そのものが凍りついているかのようでした。 子どもたちの笑い声が毎日響いていたのは、もう20年ほども前のことになってしまったそうです。しかし、長い歳月に浸食されたような乱れは微塵も感じられず、かといって、在りし日の姿が昨日のことの…

隠された小さな秘密

草森先生が遺された蔵書の中には、スポーツに関する本が、かなりある。ざっと見積もっても、100冊以上。サッカーやテニス、そしてフィギュアスケートに関する本まで混じっているけれど、圧倒的に多いのは、野球に関する本だ。 ご本人が、少年時代、野球をや…

コーヒーとおでんの間に

永代橋のたもとの喫茶店で、コーヒーを飲みながらの打ち合わせが済んだら、近くのおでん屋さんに連れて行っていただいて軽く飲むのが、草森先生との間ではならわしとなっていた。ビール1本と、お酒を1、2杯、そして、おでんを少々。 そのあと、霊岸橋のた…

それだけでニュースになるのだ!

帯広大谷短期大学から、新聞の切り抜きをお送りいただきました。1つは、『十勝毎日新聞』11月11日付夕刊。 音更出身の作家 故草森さんの蔵書 帯広大谷短大に寄贈 公民館に3万冊到着と見出しが付いています。もう1つは、翌日の『北海道新聞』の朝刊。こち…

その朝は、雪。

11月9日、月曜日。晩秋の太陽が傾き、明るい中にもどこかけだるさを感じさせる光に包まれた、午後3時ごろ。 もう1年半近くも、東京都内のとある倉庫に閉じこめられていた蔵書たちは、格安の見積もりをしてくださったとある引っ越し屋さんの4tトラックに…

北の大地へ……

1956(昭和31)年、大学受験のために上京した、一人の青年。それから半世紀以上が過ぎて、彼がその半生をかけて集めた3万冊にも及ぶ蔵書は、故郷に帰ることになりました。 長らく、みなさまにご心配いただいておりました草森紳一先生の蔵書ですが、このたび…

島々を訪ね歩く

草森紳一という人は、おそらく「愛書家」ではないだろう。 愛書家とは、本をモノとして愛する人たちだ。だから、買った本は(読まなくても!)きれいにとっておこうとするものだし、立派な書棚にきれいに並べて悦に入ったりするものだ。 草森先生にも、かつ…

京風おでんをいただきながら

お酒を飲むなら、できるだけ少人数がいい。――ぼくはこの点で、かなりかたくなである。いわゆる「飲み会」に誘われたら、なんだかんだと理由をつけてできるだけ避けようとするし、やむをえず出席するときも、5〜6人以上の「大人数」だと、スキを見つけては…

開かれなかったページ

ある人が、ある本を手に取るには、いろいろな理由があるだろう。著者のファンだったり、内容に興味があったり、装丁が気に入ったり。そんなハッキリした理由はなくても、ふとした縁で、本との出会いは訪れるものだ。 佐藤春夫の『熊野路』は、1936(昭和11)…

ケチョンケチョンに言われても!

売れるべくして売れる本も、もちろんある。しかし、売れるはずなのに売れない本もあれば、売れそうにもないのに売れる本も、たくさんある。まったく、出版は、水ものだ。 『中央公論』1936(昭和11)年7月号の別冊付録、ルネ・ジューグレ『日出づる国』(小…

いちいちツッコミを入れないで!

「スター・トレック」といえば、アメリカの人気SFシリーズだ。宇宙船エンタープライズ号が遭遇する、数々の「驚異に満ちた物語」を描いたその最初のテレビシリーズ(1966〜69)は、今では伝説的な作品となっている。ぼくの中高生のころには、日本語吹き替…

淡い緑の中に

一昨日、昨日と、東海さん、Living Yellow氏、そして円満字の3人で、思い立って草森先生のご実家の書庫を拝見に出かけてまいりました。 日食が見えるか見えないかを気にしつつ、羽田空港を飛び立ったのは午前11時過ぎ。太陽を背に一路北上して、とかち帯広…

31回目の重版

自宅で仕事をするようになって以来、電気代を少しでも節約したいので、仕事中はできる限り、エアコンのスイッチを入れないようにしている。暑い盛りでも、エアコンの使用は昼下がりの数時間にして、あとは窓を開けて、風を通してなんとかしのぐ。 もちろん、…

クラッシックとの相性

去年の6月末、東京の九段会館で「草森紳一をしのぶ会」が催された。その席上、先生と親しかった方々のスピーチももちろん印象に残ったのだが、ぼくの記憶に最も鮮やかな影を留めたのは、飾られた遺品の1つ、ぼろぼろになるまで使い込まれた漢和辞典だった…

歴史はこびりつく

『山椒魚』や『黒い雨』で知られる小説家の井伏鱒二は、若いころ、出版社に勤めていたが、奥付のない本を作ってしまった責任を取って、辞めた。――ほんとうかどうか知らないが、そんなエピソードを、読んだことがある。 いかいも井伏らしい話だなあ、とも思う…

諸葛孔明の大予言!?

1999年の7月といえば、「ノストラダムスの大予言」である。ぼくが子どもだったころ、この月に空から恐怖の魔王が降りてくるであろう云々というその予言のことを知らない少年は、皆無だったのではないだろうか。しかし、その年、7月はおろか12月が終わって…

女の子が笑って、照明が消える

大学1年生の4月のこと。知り合いになったばかりの同級生たちと一緒に、渋谷から地下鉄に乗ったことがあった。そのころのぼくには、「銀座線」という名前だけでも、「東京に来たんだなあ」という感慨をもよおさせるには、十分だったものだ。 電車は動き出す…

iMacの魅力、紙の本の醍醐味

もう10年くらい前、ある出版社で漢和辞典の仕事をしていたころ、いつかプラスチックのケースに入った漢和辞典を作ってみたい、と考えたことがある。 透明なプラスチック・ケースの中に納める本体の表紙クロスは、たとえば、赤、青、緑の3色を用意する。本文…

楽器のせいにしたくなる

学生時代、ぼくは大学のオーケストラで、ヴィオラという楽器を弾いていた。ヴァイオリンより少し大きく、チェロよりはだいぶ小さい、目立たない、地味な楽器である。 といっても、ぼくは生来の不器用だし、ひとに何かを教わるということが嫌いだし、根気よく…

夢を追い求めるということ

出版社に勤めていた17年近くの間に、ぼくは50冊以上の本を作った。いわゆる単行本として市場に送り出したものだけでも、30冊くらいにはなる。でも、重版がかかる本を作ることは、なかなかできなかった。 いわゆる専門書出版社だったから、何十万部も売れる本…

『中国文化大革命の大宣伝』発売!

3万2000冊弱の蔵書リストの入力作業を終えて、はや1月近く。週末の倉庫通いがなくなってしまうと、なんだか調子の狂ってしまう、そんな毎週を送っております。 今週は、久しぶりに倉庫へ足を運んでみました。といっても、「つわものどもの夢のあと」を見に…

ほどよい科学と、ほどよい空想

未来を予測するというのは、むずかしいものだ。 たっぷり25年振りに、高千穂遙のクラッシャージョウ・シリーズの1冊を読んで、そんなことを考えた。 時は22世紀、ワープ航法の完成により、銀河系に広く進出して繁栄する人類。依頼に応じてどんな困難な仕事…

とびっきりの贅沢

本は紙でできている。当たり前のことだが、本に触れるということは、紙に触れるということだ。 草森紳一先生の蔵書整理をやって、一番よかったと思うのは、何千冊にも及ぶ本を、実際に手にとることができた、ということだ。特に、リスト入力の作業では、奥付…

その一瞬のためだけに

ほんとうに重要なことを、ことばにするのはむずかしい。 胸の奥のそのまた奥底にある、自己形成の根幹に関わるような、とても大きなできごと。そこから生じた、喜怒哀楽のもろもろの感情。一度、きちんと語ってみたい、だれかに聞いてもらいたい。ふだんから…

どんな本でも、必ず売れる

たいていの本は、読んでもらえさえすれば、おもしろいはずだ。少なくともぼくは、そう信じている。 もちろん、万人受けするような本は、まれだろう。でも、どの本にもそれなりに「おもしろい」と思ってくれる読者がいるはずで、ただそれが時には500人だった…

社長さん、勘弁して!

『機動戦士ガンダム』の後番組として放送されたテレビアニメ『無敵ロボ トライダーG7』(1980〜81)は、なかなか忘れがたい味を持った作品だった。 巨大ロボット、トライダーG7を操って、あらゆる依頼に応える社員5人の零細企業、竹尾ゼネラルカンパニー。…

その先は永代橋 白玉楼中の人