崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

2009-01-01から1ヶ月間の記事一覧

上海から東京へ

人が旅をするように、本もまた旅をする。 本が「本」の形になって世に出るのは、製本所を出るときだ。でも、そこから先の旅路はさまざまである。取次、書店を経て、読者の手元へ届くもの。売れ残って、出版社の倉庫に眠るもの。著者の手にわたって親しい人に…

積読。

ヤッターマン、実写版映画化の報には、若干違和感があったが。深田恭子さんのドロンジョさま姿が表紙を飾る、『映画秘宝』誌3月号を目にして、「これでいいのだ」とうなずいてしまった。さて、所詮は、憶測に過ぎないのだが、このドロンジョさま、のネーミ…

ある人を待ちながら

銀座で、女の人と待ち合わせをしたことがある。 待ち合わせ場所には必ず早めに到着する。ぼくはそういうタイプだ。遅れるのがイヤ、というよりは、遅れそうになって落ち着かない気分を味わうのが、イヤなのである。 だから、10分前、15分前に到着することも…

時の流れ。空の色。

メガホンを口にあて『恋愛論』『幸福論』を歌う椎名林檎嬢には間に合わなかった。しかし、白いドレスでピアノに向かい、弾き語る、『歌舞伎町の女王』には間に合った。 『レ・ミゼラブル』を観たことも読んだこともない。その作者ヴィクトル・ユゴーについて…

NO MORE BOOKS ! 2 父とお姫さまとマクドナルド

私は買ってもらったのに読めなかった本がたくさんある。 その中でもぼんやりと当時をよく思い出すのが、 『お姫さまとゴブリンの物語』『カーディとお姫さまの物語』 (マクドナルド作/岩波少年文庫)だ。 ある日小さな私は、父が真剣かつ集中した顔つきで『…

ホームページオープン!

年始のごあいさつにて予告いたしましたホームページ「白玉楼中の人 草森紳一記念館」を、本日、オープンいたしましたので、お知らせいたします。 草森先生のライフワークであった中国の詩人、李賀が死ぬとき、天帝から「新しく白玉楼という宮殿を建てたので…

気力。

[ 草森紳一、氏の御蔵書の中にあった、本書『東京大地震史』。朝倉義朗著、日本書院発売。奥付には大正十二年九月二十八日印刷、同年九月三十日発行、とある。著者によるはしがきの日付は同年九月二十日。その年、その九月一日、関東大震災発生。十四頁にわ…

だれか1人だけでも

書籍編集者はいつも、担当した本が店頭で平積みになっている風景を夢見ながら、仕事をするものだ。その絵の中では、帯はとても重要な宣伝媒体である。パッと見た瞬間に、「おもしろそうだ!」と脳を刺激して、思わず手にとってあわよくばレジまで持って行き…

ダンス、ダンス。

ヤード・セールという言葉を本書『ぼくが電話をかけている場所』(レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳、中公文庫・品切中:表題作や、『大聖堂』など、もっとも重要な彼の短編作品は同じく村上春樹訳の中公文庫『Carver's Dozen レイモンド・カーヴァー傑…

蔵書をいったいどうするか(1)壮大な火葬のように

それぞれの立場の人が覚悟はしていたものの、草森さんの死はやはり突然に訪れた。 『en-taxi』の連載を落としたと聞いたとき、「ア、今度こそダメだ」と編集者のFさんは息を呑んだそうだ。 亡くなったと思われる前夜は電話で仕事の長話、夜中にはコンビニに…

中間地点の眺め

お昼過ぎ、いつもの倉庫に到着してみたら、一番乗りなのにエアコンだけは稼働中。どうしたんだろうと思ったら、管理会社の部長さんが気を遣って、朝から暖房を入れておいてくださったのでした。やさしいお心遣い、ありがとうございます。 でも、風貌から判断…

直球勝負の生きざま

時は大正。小説家の村岡は、友人野々村の妹夏子と知り合い、二人は恋に落ちる。やがて、帰国後の結婚を約束して、ヨーロッパへ旅に出る村岡。二人の愛を語る手紙は、ユーラシア大陸を何度も往復する。半年の後、帰国の途についた村岡は、しかし香港の手前の…

立ち読み。

昔、行き付けの書店はいつも混雑していた。夕方の、マンガ棚など、本当に押し合いへし合いという状態だった。そんな中で、朝日ソノラマ版の『光る風』(山上たつひこ)とか、講談社全集版の『ガラスの脳』(手塚治虫)、そして『コンプレックス・シティ』(…

NO MORE BOOKS! 1 目録に感動

本がなくても生きていけます、草森紳一の娘は。 私はたくさんの本に囲まれて育った。 幼い私に与えられる最優先の栄養は、本と映画や舞台などの芸術鑑賞だった。 けれど大人になった私は「本」の世界にどこかパタッと回路を閉ざしている。 友達の中でも本好…

探しものは何ですか

あるはずの本が出てこない。 たいしてたくさんの蔵書を持っているわけではないけれど、ぼくにもそういう経験がある。たしかにあったはずなのに、見つからない。内容はもちろん、装丁も覚えているし、本棚のどのあたりに置いたかまで記憶しているつもりなのに…

ノック。フック。パンチ。

ノックは。と振られて「無用」と答える方も多いだろう。しかし、思い浮かべるのがマリリン・モンローか。「パンパパカパーン」のマンガトリオの横山氏か。その方の「お里が知れる」振りである。それでは。 ノックの音が。と聞いたら。星新一氏の、「ノックの…

あったかい本が欲しい!

今年最初の目録入力作業を、9日(金)〜10日(土)の2日間、行いました。 金曜日の東京都内は、積雪の予報もあったくらい。冷たい雨が降りしきりました。年末年始の休みですっかり冷え切った倉庫は、ハンパないくらいの低温。エアコンをフル稼働しても寒さ…

19にして心すでに……

この漢字、なんて読むんでしょうね? そんなふうに声を掛けられると、身構えてしまう。何を隠そう、ぼくは一応、漢和辞典の編集者をしていたということになっている。加えて、円満字二郎というこの本名で、一見したところは「漢字本」としか見えないような著…

巨匠放浪。

スーさん。『釣りバカ日誌』シリーズでの、この呼び名がすっかり定着した感のある、三国連太郎氏。しかし、ひところまでは、あのざらついた16mmフィルムでのブローアップ、ネガポジ反転映像が記憶にこびりつく、原作、水上勉氏の傑作『飢餓海峡』(1965年)を…

黒塗りの向こうには

本の価値とは、いったい何だろうか。 書かれている内容が、人類の知的遺産としてかげがえのないもの。そういう本なら、千古不滅だろう。でも、そんなに確実な「価値」を持つ本など、めったにない。世の中に生まれてくるほとんどの本は、時代の荒波にもまれて…

大盛トンカツ。

泉にんにく、囲まれ天丼。子どものころ、聞いた『ブルーシャトー』(作詞:橋本淳、作曲:井上忠夫、ジャッキー吉川とブルーコメッツ)の替え歌、である。脚韻をいじったこの高等技術、たぶん元をたどると、黎明期の深夜ラジオ、最初期の腕利きハガキ職人の…

3世紀半の重み

蔵書の中には、江戸や明治の和綴じ本も、少なからず含まれている。そのリスト化は、なかなかたいへんだ。基本的に汚れがひどく、製本が壊れかかっているようなものも多い。触るだけでも勘弁してほしいという人も多いだろう。さらに、きちんとした扉や奥付が…

命がけのチャランポラン

生きたいように生きるとはどういうことなのだろう。 蔵書の山を眺めながら、またも考える。 自分の本能に忠実に、動物のように自由に生きるとしても、動物にも動物世界の掟があるはずだ。それをどうやってうまくやりすごすか! 我を通すか。 桁外れの(まだ…

夢の小説。小説の夢。

宝石箱。 そんな賛辞しか思い浮かばない。一昔前の彦摩呂氏ではないが。久々に山尾悠子氏の短編集『夢の棲む街』(昭和53年、早川文庫)を取り出して、朝日を待ちながら読み終え、御蔵書の、同じく山尾氏の短編集『オットーと魔術師』(昭和55年、集英社コバ…

新年のごあいさつ

新年、明けましておめでとうございます。 昨年の6月にスタートした蔵書整理プロジェクトも、足かけ2年目に入ります。有志の方々の献身的なご努力によってここまで作業が継続できていることには、驚きを禁じ得ません。 虎は死して皮を留め、人は死して名を…

その先は永代橋 白玉楼中の人