崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

マンガ。

 草森紳一、氏の御蔵書の中で、異彩を放つのが、文字通り、山となったマンガ本だ。その多くは資料としてでもなく、ひたすら読み続けておられていたとおぼしい。
 当方が途中で投げ出してしまった、長期連載作品も多い。
 『魔少年ビーティー』にはじまる、『ジョジョの奇妙な冒険荒木飛呂彦先生の作品。『軍靴の響き』(原作・半村良)から『ジパング』、『太陽の黙示録』に至る、かわぐちかいじ先生。『うる星やつら』から『犬夜叉』までの高橋留美子先生。『ストッパー毒島』、『BECK』とハロルド作石先生。『バタアシ金魚』は当然のこと、『お茶の間』、『ドラゴンヘッド』、『万祝』と望月峯太郎先生。小学館別冊ビックコミックを含めて、新刊が出るたびに購入されていたご様子のさいとう・たかを先生の『ゴルゴ13』。『雲盗り暫平』まである。もちろん、何度も何度も新しいバージョンがでるたびに買い直しておられた形跡がみられる手塚治虫先生の『火の鳥』、『三つ目がとおる』。浦沢直樹先生の『PLUTO』もまた。
 さすがに少女マンガはやや薄い。とはいえ、矢沢あい先生の『下弦の月』、今日作業中、入力したもの中から、だけでも、安野モヨコ先生の『シュガシュガルーン』、大島弓子先生『ダリアの帯』とやはり手堅い。
 小池一夫先生・叶精作先生『実験人形ダミー・オスカー』など懐かしすぎる。全巻初版の大友克洋先生『AKIRA』もドンと。
 1966年12月、「まんがを愛する仲間たちに、まんが家のほんとうの心を伝える新しいコミック・マガジン」として、手塚治虫先生が創刊した『COM』(虫プロ商事)誌上に最初期からマンガ論を長期連載、『ユリイカ』(青土社)2007年11月臨時増刊、総特集『荒木飛呂彦』にも寄稿された草森紳一、氏のマンガたち。
 それらのマンガたちの頁には、付箋が貼られ、さらにその上に墨で書き込みをされていることもある。「指」、「穴」などなど。
 当方が初めて、御蔵書の山を拝見したとき、積み上げられた数多くのマンガ本の中から、目に飛び込んできたのは。ちばてつや先生、『おれは鉄兵』だった。その表紙絵に描かれた、腕白少年のはずの、葉っぱを口にくわえた鉄兵の、少女のようでもあり、全てを悟りきったような老人のようでもある、哀しいとも切ないとも表現しがたい、澄みきった瞳に射すくめられたような気が、その時、した。
 そんな瞳が、このマンガたちに向けられていた、のかもしれない。 

その先は永代橋 白玉楼中の人