崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

三人。

 三人寄れば文殊の知恵、と聞くたびに。不謹慎にも、当方が、思い浮かべてしまうのが、あのトラブルつづきの高速増殖炉もんじゅ」である。人間関係のはじまり、が二人から成り立つとすれば、三人とは「組織」のはじまりではないだろうか。そして、暴力がギャラリーなしには成立しない、という点を鑑みても、「暴力」のはじまりでもあろう。昔々、『暴力のオントロギー』今村仁司、剄草書房、1982年)を肴に飲んでいる内に、いつのまにか、「第三項排除」で何でも、身内のことを表現しては粋がっていた頃のことをふと思い出した。

「あの飲み会、結局、あいつが美味しいとこ持って行きやがった」
「こっちは第三項排除だよ。まったく」
「こんどはこっちから第三項排除しかけようぜい」

 こんなお粗末な用法では、数年前逝去された、今村仁司先生もお怒りになるだろうか、それとも苦笑してお許しいただけるだろうか。

 さて草森紳一、氏の御蔵書の中の、本書『とどめの一撃』(マルグリット・ユルスナール岩崎力訳、1995年、岩波文庫(品切中)、原著"LE COUP DE GRACE"、1939年)。第一次世界大戦ロシア革命の最中のバルト三国エストニアリトアニアラトビア)及び周辺地域を舞台に反革命(反ボルシェビキ闘争)派に身を投じて戦う、エリックと幼なじみのコンラート、そして聡明かつ気丈ながらも、過酷な運命に翻弄される、コンラートの美しい姉、ソフィー、この三人の物語である。第二次世界大戦が始まってしまった、1939年という時期に、発表された本作品。マルグリット・デュラスと並び評される、フランス女流作家の「雄」、ユルスナールが、フランス古典劇の大御所コルネイユたちが練り上げ、ラシーヌが実現した、悲劇に要求される三つの単一性、「場所と時間と筋の単一性」、つまり「三単一の規則」を強く意識して、書き上げている。本書巻末に詳細な解説と、ユルスナールの年譜を書き加えている、岩崎力氏の名訳も、味わい深い。
 本書p.22の一節から。
<死者はたちまち遠ざかる、しかし生者もまた、と歌ったドイツの民謡(バラード)がある。>

その先は永代橋 白玉楼中の人