崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

NO MORE BOOKS ! 7 『170 CHINESE POEMS』 (上) 物質から影へ

 蔵書の中には中国語の原書がかなりあって、倉庫に移す前から父のマンションの廊下の本棚をびっしりと埋め尽くしている様子は、見ると今にもそこからガヤガヤとチャイニーズな本達の騒々しいお喋りが聞こえてきそうだった。
 それと比べればわずかな量だが、蔵書の中には英語の本もある。「洋書」と貼り紙されたダンボールをあけて、物珍しく手に取りながら目録入力していたら、龍の絵の装丁が魅力的なある1冊をみつけた。開くとちゃっかり父の蔵書印も押されている。
 Arthur Waley翻訳、Madeleine Pearson挿画の『170 CHINESE POEMS』(Constable and Company Ltd.)は、1918年ロンドンで初版、それから約40年に渡って版を重ねてこれは1962年の新版だ。様々な中国の詩が英訳された本だが、漢詩の原文は載っておらず、詩人の名前の英語表記もよくわからない。アマゾンで同タイトルの本を検索したら、87年にも新版が出ていて、こちらにはどうやら北京語が併記されているみたい。ともあれ、この本の詩の中からどれかちょっと読んでみようかなとパラパラめくる。

 ふと目に止まったのは、T'AO CH'IEN 作<SUBSTANCE, SHADOW, AND SPIRIT>という題の詩。英訳詩は4段落で構成されており、1段落目は導入、その後‘Substance speaks to Shadow:'‘Shadow replies:'‘Spirit expounds:’と分かれている。まず物質が影に語りかける、それに影が応える、最後に魂が詳説して終る。
 この対話形式が何やら面白そう。作者についてはこの表記で調べてみたものの、いつの時代の詩人なのかもわからなかった。とりあえず電子辞書を片手に訳し始めたが、漢詩が英訳されたものを、さらに私が継接ぎのような拙さで日本語に置き換えるのだから、内容が正しいかどうかは保証しません。

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<物と影、そして魂>

 高貴なものも卑しいものも、 賢いものも愚かなものも、皆せっせと人生の瞬間を溜め込んでいる。何と大きな過ちか!だから私は物質と影の両方が抱える苦しみを、最大限に曝け出してやらねば。そして魂に、我々が自然に従うことで、いかにこの苦味を消滅させ得るかを説明させた。

物質は影に語りかける:

天と地は永久にある  山々と川は変らないもの
しかし万年循環の中にある草や木々は露と霜によって刷新され枯れしぼむ
そして賢者や聖人は− 彼らだけがこの法則から逃れられようか?
この世界の一瞬に思いがけず現れ、彼は突然に旅立ち、もう二度と戻らない
残された友人達が寂しがり、彼の事を考えているのを、どうして彼は知ることができようか?
彼の使った物だけが残っている  友人達はそれを見て涙を溢れさす
どんな魔法でも私を守っておくことなどできない、魔法使いに救いの手を乞おうとも
どうかこの助言を聞いておくれ−
酒を手に入れることができた時は、必ずやそれを飲み干しておけ

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これに影が返答する、続きは次回ご紹介します。

その先は永代橋 白玉楼中の人