崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

会社。

 法人、という言葉がある。英語ではCorporation、となるらしい。しかし、このCorpoというあたりが「からだ」を原義とするようだ。抽象的な概念でありつつも、何か血の通った肉の匂いのする生々しさ、がどちらの言葉からも感じられる。
 人身事故のアナウンスに、苛立ちながら、慌てて、携帯電話で会社に連絡を入れる人々。そんな風景が頻繁な昨今。諸星大二郎先生の、『生物都市』(1974年、「週刊少年ジャンプ」(集英社)第7回手塚賞入選作)に先立つ、実質的商業誌デビュー作(1973年、「漫画アクション増刊」(双葉社)掲載)であり、草森紳一先生の御蔵書中、数多い、諸星大二郎先生の著書の一つ、本書(集英社、1993年)の表題作、『不安の立像』がふと頭に浮かぶ。
 冷房もない、満員の通勤電車の車窓の向こう、流れていく視野に入ってくる、あの、いつも線路脇に佇んでいる黒い影。
 誰もがその存在を知っていて、しかしそれ以上知ろうとしない、あの黒い影は、今。滅びたのか、それとも。無数に増殖しているのか。

 現在、品切中の本書であるが、『子供の遊び』、『復讐クラブ』、『袋の中』、そして『子供の王国』と、現代社会に題材をとった、真の意味での「怪奇」マンガともいうべき傑作ぞろいである。ただ、頻繁に品切になるが、また繰り返し、復刊、文庫化されるのが諸星大二郎先生の作品群でもある。幻の初期作品、『硬貨を入れてからボタンを押して下さい』も収録された、「ユリイカ」(青土社)2009年3月号での特集も好評のようだ。
 久方ぶりに再読した『会社の幽霊』(本書収録、初出「ヤングジャンプ増刊ビジネスジャンプ」(集英社)1号、1982年)。学生時代とはまた違った味わいがあった。
 とある総合商社の本社移転計画。役員会は紛糾する。この情勢下に、会長の意思とは言え、そんな無理な計画は、との意見が大勢を占める。会長に計画中止の決裁を仰ぐことになるが。しかし、誰も会長室に向かおうとはしない。そこに通りがかった営業平社員にその任が。広大な会社を彼はさまよう。そもそも会長、の実体とは。ついに「あかずの会長室」の扉を開く。

 <いったでしょう
  会社は生きているんだと……
 「会社」とは 社員や施設のことだけじゃないんです
  会社には 実体があるんです
  目にみえないだけで…>

 <でも このエネルギーは
  高度成長経済の夢しかみない…
  これが「会社」の幽霊なんですよ>
  (本書、p.178より)

 発足時に、こんな傑作を載せていた、「ビジネスジャンプ」。おそるべし。
 和田ラヂヲ先生、漫☆画太郎先生、そして『甘い生活』、弓月光先生の作品を通勤電車で読みたいときは。「ビジネスジャンプ」! 毎月第1、第3水曜日に発売中!

その先は永代橋 白玉楼中の人