近ごろ、雑誌の付録がアツイらしい。なんでも「女性誌」なるものには、ブランド物の折りたたみ傘やミニバッグ、ビーチサンダルからはてはガーターベルトまでが付録として付いてくるというウワサだ。付録を呼び物として売り上げ部数を伸ばそうと、“付録合戦”が始まっているらしいのだ。
しかし、雑誌の付録がアツイのは、なにも21世紀だけの話ではない。
今を去ること約80年前にも、雑誌の“付録合戦”があった。その代表的な存在として出版史上に名を留めるのが、『明治大帝』。戦前の日本を席捲した大衆向け総合雑誌『キング』(講談社)の1927(昭和2)年11月号の付録である。
折しも1927年には、明治天皇の誕生日を記念した「明治節」(11月3日)が制定された。初めて迎えるこの祝日に合わせ、講談社は総力を挙げて、四六判上製函入り、本文840ページ、口絵16ページに及ぶ『明治大帝』を編集し、それを『キング』の付録として付けたのである。ちなみにこの号の売れ行きは、130万部という。
橋本求『日本出版販売史』(講談社、1964)には、「付録を初めて単行本形式の冊子としたのは「婦人倶楽部」大正十二年一月号で、その時苦心の末別冊付録という言葉もつくった」とある。『キング』の付録『明治大帝』は、“別冊付録合戦”のキングいやエンペラーだったのだ。
現在、これだけのものを単品の書籍として作ると、たとえ100万部作ったとしても、販売価格は3000円は下らない。「円本」の時代であることを考えると、当時だって数円にはなったに違いない。当時の『キング』の定価は50銭だから、いかに豪華な付録だったかが、わかる。
ところがこの付録、まさにそのアツサがちょっとした問題になったらしい。前掲書によれば、「これは第三種郵便物としては通過せず、結局一般書籍なみの扱いで元取次から発送された」とのこと。雑誌の特権である低価格での郵送は認められず、一般書籍と同様の郵便料金を取られたというのである。これだけ分厚ければ、しかたのないところだろう。
出版は文化であるが、同時にモノでもある。モノは作るにも動かすにも、経費がかかるのだ。だが、モノとしての魅力がある付録でなければ、売り上げに寄与するはずもない。
だから、今も昔も、雑誌の“付録合戦”はアツイのである。