崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

ランディ・バース上院議員(オクラホマ州議会、民主党)。

 1985年10月16日。大阪。阪神タイガース、実に21年ぶりのセ・リーグ優勝。熱狂の中、ケンタッキー・フライドチキン店頭のカーネル・サンダース(サンダース大佐)の像が、「バースに似てるやん」と誰か、が言い出したのだろう、胴上げの栄に浴し、ついでに道頓堀に投げ込まれた。『探偵ナイトスクープ』、生瀬勝久探偵率いる潜水探査チームなどの探索も空しく、そのお姿は久しくあの道頓堀の底に埋もれていた。そして、23年余の歳月を経て。2009年3月。サンダース大佐は再び、地上に立った。

 草森紳一、氏の御蔵書中には、スポーツ関係の書籍も数多く存在している。その中の本書『バースの日記。』(ランディ・バース(Randy Bass)著、平尾圭吾訳、1991年、集英社文庫(単行本1990年)、品切中)。1985年1月8日から1988年シーズン途中での、突然の帰国までの、阪神タイガース史上最強の助っ人、三冠王に二度も輝いた、ランディ・バース様の日記、である。検索してみたところ、表題の通り、バース様は2004年11月2日、民主党アメリカ合衆国オクラホマ州議会上院議員として初当選。現在も、バラク・オバマ大統領の所属する民主党、地方政界のホープとして活躍されている模様である。慶賀の至りである。
 本書からは。日々のガソリン代、タクシー代、円・ドル相場をまめに書き留める、当時のバース様の堅実な一面も伺える。味わい深い、バース様の肉声をいくつか。
 <1986年9月8日 月曜日 神戸 …プロレスもプロ野球も、日本人の考え方は同じだ、とハンセン(必殺、ウェスタン・ラリアットのスーパースタープロレスラー、スタン・ハンセン氏。バース様との親交は深かったようである)は言う。オレもヤツの考え方とまったく同じだ。それというのは、外人選手は常にdo good(良くやる)でなければならないが、real good(凄く良くやる)となるとマズい。…>(本書、p.175より)
 異文化コミュニケーションにお悩みの方々には。
 <1987年8月7日 金曜日…ヤツ(佐野仙好選手)とは夜よく一緒に飲みに出かける。ヤツや川藤(川藤幸三選手)と、よく出かけるのだが、このふたりは外人に対してあけっぴろげで遠慮がない。それで仲良くつきあえる。>(本書、p.195より)
 そして、以下の記述には素直にじん、と来た。
 <1987年10月10日…タイガースのファンは、日本一だ。いつも熱心にオレを心から応援してくれる。タイガースは最下位になったが、それでも5万のファンが熱心に応援しつづけてくれた。オレは野球を退いたあともこのファンを一生忘れない。>(本書p.203-204より)
 だが。この日の日記はこう閉じられている。
 <…いつも塁にランナーがいない打席では、まるで、オレのいる意味がない。>
 …ごめんなさい。バース様。

その先は永代橋 白玉楼中の人