崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

バベル。

 古本屋に足を初めて踏み入れたのは、いつのことだろうか。
 一番最近、あわてて入った古本屋で買った『研究社ビジネス英和辞典』(梁田長世編著、研究社、1998年)で、試みに。今世界を揺るがしている単語、subprimeを引いてみる。
 <1.二級品の.…>。辞典は初版を買ってはいけない、というのも金言だが、古本である故に、真実を射抜くということも多々ある。

  草森紳一、氏の御蔵書、の中にすっくと立ち現れた本書『金魚屋古書店出納帳』芳崎せいむ小学館)。
 「金魚屋古書店」という名の立て看板を脇目に硝子戸をくぐると、『火星探検』(旭太郎・作、大城のぼる・画、中村書店、昭和15年、復刻版入手可能)をはじめ、記憶にかすかに残るあのマンガ、見たことも聞いたこともないこんなマンガ、どんなマンガでもうずたかくそびえたつ、書棚に並んでいる。一見さんでも、手練れのセドリ屋さんでも入ることができる。安からず、高すぎずの適正価格。ワゴンセールあり。何でも知ってる、店番のおじさんに出くわせば、色々相談にも乗ってもらえるし、運がよければ、元気な女店長と出会うこともできる。そして地下に降りていくと、さらに。
 まさしく、夢の古本屋。いやいや、昔も今も、どんな平凡な古本屋にも、新古書店にだって、その匂いそのものに、店員のエプロンにも夢が立ちこめているものだ。ハタキにまで夢を感じるのは、至難の業だが、不可能なことではないだろう。
 金魚、といえば、猫がゆうゆう闊歩する、しっかりもののお婆さんが仕切る小さな古本屋があった。いつも小銭をおまけしてくれたものだ。今は遠い、坂の多い町に。
 さて、と先の辞典を、戯れに引いてみる、bookは。
 <n.1.小切手帳… vt.1.<名前・注文を>記入する、記帳する;…〜off《一定の勤務時間後に》退社する;《サボタージュの意志表示として》欠勤する。>
 この古本、やはり、よい買い物だったようだ。
 本日、当ブログに二件目のトラックバックをいただきました。有難うございます。今後とも宜しくお願い申し上げます。

その先は永代橋 白玉楼中の人