崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

階段。

 かつて、ギターをやっている若い人は、楽器店に行き当たるとなかなか素通りできず、周りの都合などお構いなく、試し弾きに興じたものだった。店員の方々も、滅多に「顧客」になどならない、そんな「お客さん」を黙って、暖かく遇していてくれていたような。
 とはいえ。某楽器店のギターコーナーにはこんな貼り紙があったという。『天国への階段。禁止!』。近年脚光を再び浴びている都市伝説、かもしれないが。初心者にもやさしいアルペジオ奏法で、8分半もあるこのレッド・ツェッペリンLED ZEPPELIN=鉛の飛行船)、屈指の名曲『Stairway To Heaven』を。店頭で弾き語られる。これはさすがにたまらない、のは察しがつく。哀調を帯びたあのメロディーを、たどたどしく長々と弾かれては、そのシールドが突っ込まれたマーシャル・アンプも余計に売れなくなってしまう、というものである。この「伝説」、よほど、実感に根ざしたものらしく、マイク・マイヤーズ氏、ダナ・カーヴィ氏が、米国、郊外の暢気なクラシック・ロック兄弟、ウェインとガースを演じた、サタデー・ナイト・ライブ、発の米国映画『ウェインズ・ワールド』(1992年)にも同様の小ネタが出てくるらしい。

 本書『永遠の詩 レッド・ツェッペリン・ストーリー』(リッチー・ヨーク著、西留清比古訳、シンコー・ミュージック、1988年)は、レッド・ツェッペリン、結成前夜から、1980年:ドラマー、ジョン・ボーナム氏の急死、解散、その後、をメンバー、関係者の証言を交えて綴った一冊、である。ジミー・ペイジ氏のヤードバーズ時代も描かれている。
 クラシック・ロックとしては、ビートルズローリング・ストーンズと同等の地位を確保しているといってよい、レッド・ツェッペリン。ブルースから、サイケデリックまでさまざまな要素を包含しつつ、華麗なギタープレイを通じて、ハードロック、ヘヴィメタルとも繋がっていく、現在では信じられない幅広さを持った名曲たちを生み出した。60年代末から70年代前半とは。そんな途方もない自由が、ロックの商業的成功と両立し得た、最後の時代だったのかもしれない。
 「あ、ギターだ。何か弾いてよ」
 「じゃ、静かなのをな」
 『天国への階段』。一昔前、階段の脇に下駄箱があるような安下宿で、若い衆が、雑魚寝する長い夜の、子守唄の定番とも、なっていた、名曲中の名曲。作曲者として表記されているのはもちろんジミー・ペイジ氏。作詞のロバート・プラント氏(本書表紙写真参照)は、アリソン・クラウス氏との共作アルバム『レイジング・サンド』をひっさげ、先日、第51回グラミー賞にて、5部門制覇とのことである。
 ところで、ツェッペリンとは。20世紀初頭、ドイツのツェッペリン伯爵の設計した、硬式飛行船シリーズから由来し、この場合、飛行船全般を指しているようだ。飛行船が空の覇者であった、時代もあった。第一次世界大戦中の1915年、ドイツ軍が、初めてのロンドン空爆=空襲を行ったのも、このツェッペリン伯爵の飛行船上からだった、という。

その先は永代橋 白玉楼中の人