崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

2009-01-01から1年間の記事一覧

歴史はこびりつく

『山椒魚』や『黒い雨』で知られる小説家の井伏鱒二は、若いころ、出版社に勤めていたが、奥付のない本を作ってしまった責任を取って、辞めた。――ほんとうかどうか知らないが、そんなエピソードを、読んだことがある。 いかいも井伏らしい話だなあ、とも思う…

第二十六話。

稲森いずみさまと藤原紀香さまに、阿部寛氏が入り乱れる、フジテレビ、TVドラマ版『ハッピーマニア』については断片的にしか思い出せない。連載完結の数年前、20世紀末のドラマなので、原作と大枠で矛盾しない、オリジナルの「結末」が設定されている。ち…

諸葛孔明の大予言!?

1999年の7月といえば、「ノストラダムスの大予言」である。ぼくが子どもだったころ、この月に空から恐怖の魔王が降りてくるであろう云々というその予言のことを知らない少年は、皆無だったのではないだろうか。しかし、その年、7月はおろか12月が終わって…

不犯。

いま、このタイトル、を変換しようとして果たせなかった。ふぼん、と読む。宮本武蔵氏は生涯不犯、であったと伝えられている。つまり、早い話が、一生、女を抱かなかった、ということである。草森紳一氏の御蔵書にも残されていた、井上雅彦先生の渾身の作品…

女の子が笑って、照明が消える

大学1年生の4月のこと。知り合いになったばかりの同級生たちと一緒に、渋谷から地下鉄に乗ったことがあった。そのころのぼくには、「銀座線」という名前だけでも、「東京に来たんだなあ」という感慨をもよおさせるには、十分だったものだ。 電車は動き出す…

NO MORE BOOKS ! 13 陶淵明 番外編  −漫画『桃源記』

以前に3回連続で、『170 CHINESE POEMS』という洋書の中からT'AO CH'IEN 作「SUBSTANCE, SHADOW, AND SPIRIT」という詩をご紹介した。英訳で初めてこの詩と出会ったのでオリジナルの漢詩について何の知識もなかったけれど、陶淵明の「形影神」だと教わり原…

煙草。

お金が通用しない、使えない時、何が通貨代わりになるか。一昔前までは、特に戦争映画・マンガの世界では、大抵「煙草」だった。ニヒルな副主人公あたりが不慮の死を遂げる時、主人公にせがむのは。決まって「最後の一服」だった。 かつては、米軍兵士の支給…

iMacの魅力、紙の本の醍醐味

もう10年くらい前、ある出版社で漢和辞典の仕事をしていたころ、いつかプラスチックのケースに入った漢和辞典を作ってみたい、と考えたことがある。 透明なプラスチック・ケースの中に納める本体の表紙クロスは、たとえば、赤、青、緑の3色を用意する。本文…

NO MORE BOOKS! 12 十七歳の筆跡(その二)

明治文学、講義。この前の続きから本を開きます。 ちょっと飛んでp15。 ≪元来中國文學の飜譯はすでに奈良朝から起つているが、歐洲文學は近世初頭であり、アラビアンナイトの斷片やイソップは徳川時代の説話や假名草子に現はれてをり、明治以降になると、…

新聞。

遠い、昔。朝の表参道で待ち合わせした女性の、サザビーのリュックからはその日の朝刊が覗いていた。喫茶店に入って、二人して、珈琲を飲みながら、煙草を吸い、新聞を読んた。どこかの原発で小さな事故があった日だと思う。それから、今はもうない同潤会ア…

楽器のせいにしたくなる

学生時代、ぼくは大学のオーケストラで、ヴィオラという楽器を弾いていた。ヴァイオリンより少し大きく、チェロよりはだいぶ小さい、目立たない、地味な楽器である。 といっても、ぼくは生来の不器用だし、ひとに何かを教わるということが嫌いだし、根気よく…

NO MORE BOOKS ! 11 十七歳の筆跡 (その一)

父の蔵書には、線がいっぱい引っぱってある本が多い。だから「どちらにしろ古本屋では売れないわね」と母が残念そうに言った。でもこの線の引かれた跡をみていく事が、私としてはかなり楽しい。そこに生きている父が甦って来る気がするから。目録の入力が終…

声。

とある午後、ちょっとした悪さでもしでかしたのだろう。小学生、低学年だろうか、子どもを叱る声と泣いて謝る声が、窓の隙間から暫く流れ込んでいた。久々に聞く、子どもの泣きじゃくる声。聞くとはなしに聞いていたが、無事、お許しを得たらしく、ひっくひ…

夢を追い求めるということ

出版社に勤めていた17年近くの間に、ぼくは50冊以上の本を作った。いわゆる単行本として市場に送り出したものだけでも、30冊くらいにはなる。でも、重版がかかる本を作ることは、なかなかできなかった。 いわゆる専門書出版社だったから、何十万部も売れる本…

蔵書をいったいどうするか(9) 男と女ではなく、女と女でもなく、男と男が…

やっぱり男と男ね、と思う。何がって、絆の強さがである。 多分この6月末、草森紳一のフランク・ロイド・ライトの本がようやく出版される。写真は大倉舜二氏。 いまから35年も前の1974年夏、二人がアメリカでライトの建築を見て廻ったときの仕事をまとめたも…

『中国文化大革命の大宣伝』発売!

3万2000冊弱の蔵書リストの入力作業を終えて、はや1月近く。週末の倉庫通いがなくなってしまうと、なんだか調子の狂ってしまう、そんな毎週を送っております。 今週は、久しぶりに倉庫へ足を運んでみました。といっても、「つわものどもの夢のあと」を見に…

ほどよい科学と、ほどよい空想

未来を予測するというのは、むずかしいものだ。 たっぷり25年振りに、高千穂遙のクラッシャージョウ・シリーズの1冊を読んで、そんなことを考えた。 時は22世紀、ワープ航法の完成により、銀河系に広く進出して繁栄する人類。依頼に応じてどんな困難な仕事…

命名。

軍艦を初めとする、軍事関係の名称には、史実や、考え方を反映した、それなりの決め事があり、興味深い。例えば、アメリカ陸軍のヘリコプター(編成の流れとしては騎兵隊の流れを汲む)などは、型番以外に、なぜか、イロコイ(UH-1、汎用)、チヌーク(CH-47、…

とびっきりの贅沢

本は紙でできている。当たり前のことだが、本に触れるということは、紙に触れるということだ。 草森紳一先生の蔵書整理をやって、一番よかったと思うのは、何千冊にも及ぶ本を、実際に手にとることができた、ということだ。特に、リスト入力の作業では、奥付…

注文。

昔々。一人、眠れぬ夜、四畳半住まいの学生、行き付けの飲み屋があるわけでもない。手早く自分で、ニンニクラーメンチャーシュー抜き、を作る腕前もなく。日付が変わる頃、レンタルビデオ屋に足を向け、よせばいいのに、『ギャング忠臣蔵』(東映、1963年、…

その一瞬のためだけに

ほんとうに重要なことを、ことばにするのはむずかしい。 胸の奥のそのまた奥底にある、自己形成の根幹に関わるような、とても大きなできごと。そこから生じた、喜怒哀楽のもろもろの感情。一度、きちんと語ってみたい、だれかに聞いてもらいたい。ふだんから…

怪。

草森紳一、氏の御蔵書中に本書『チャイナ・ファンタジー』(南伸坊、潮出版社、1990年、現在品切中)を見いだして。ブログ用にと持ち出し、そのまま逐電、とも思った。随分昔に、夏目房之介氏の御著書中に引用されていた、ほんの一コマで魅了されて以来、い…

NO MORE BOOKS ! 10 モデル

「写真家・草森紳一」を紹介するWEB連載が、「白玉楼中の人 草森紳一記念館」で大竹昭子さんの文章と共に始まりました。‘撮る人・草森紳一’に一筋の光が当てられると、私は同時に‘撮られる人・草森紳一’の存在に心が傾く。 「兄は憧れだったんよ。東京から帰…

どんな本でも、必ず売れる

たいていの本は、読んでもらえさえすれば、おもしろいはずだ。少なくともぼくは、そう信じている。 もちろん、万人受けするような本は、まれだろう。でも、どの本にもそれなりに「おもしろい」と思ってくれる読者がいるはずで、ただそれが時には500人だった…

月夜。

夜遊びなど、夢のまた夢の時分。帰り道、夕暮れの書店で、内田美奈子先生の繊細な線で描かれた『赤々丸』(ブッキング、にて復刻版入手可能)などを立ち読んでいた当時。「漫画サンデー」(実業之日本社)の原色中心の表紙、その上で飛び跳ねていた『まんだ…

社長さん、勘弁して!

『機動戦士ガンダム』の後番組として放送されたテレビアニメ『無敵ロボ トライダーG7』(1980〜81)は、なかなか忘れがたい味を持った作品だった。 巨大ロボット、トライダーG7を操って、あらゆる依頼に応える社員5人の零細企業、竹尾ゼネラルカンパニー。…

夢。

学生時代の四畳半の夢を見た。昭和、の四畳半である。下駄箱で靴を脱いで2階へ上がっていった。廊下に出て驚いた。積み上がった本の山である。日頃愛想の良かった隣人達は一様に口を閉ざす。いくらなんでも、と見ていくと、全て身に覚えのある、本たちであ…

美しき5月、古本と目玉。

世の中はゴールデン・ウィークの真っ最中。われらが「蔵書整理プロジェクト」も一区切りついて、休みを満喫できるはずの週末。でも、あの倉庫に出かけないというのも、ちょっと調子が狂ってしまう。そんな感じがする、5月最初の土曜日です。 さて、東京は文…

蔵書をいったいどうするか(8)浮かぶ倉庫・浮かぶ本たち

その昔、渋谷の交差点を渡ったとき、センター街の奥のほうに草森紳一さんの姿を見かけた。まだお昼前の早い時間で、人通りもほとんどなかった。 イエローのすこしくたびれたコーデュロイのジャケットに、だらんと伸ばした右手には小さな巾着のひもがひっかか…

旅へいざなうDNA

中国文学の先生方は、中国旅行がお好きだ。春休みや夏休み、そしてゴールデン・ウィークまで、何人もの仲間やお弟子さんたちと連れだって、やれ江南だ、やれ四川だ、やれシルクロードだと、はるばると旅にお出かけになる。中国旅行歴数十回という先生も、け…

その先は永代橋 白玉楼中の人