崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

第二十六話。

 稲森いずみさまと藤原紀香さまに、阿部寛氏が入り乱れる、フジテレビ、TVドラマ版『ハッピーマニア』については断片的にしか思い出せない。連載完結の数年前、20世紀末のドラマなので、原作と大枠で矛盾しない、オリジナルの「結末」が設定されている。ちなみに主役は稲森さまで、阿部氏も藤原さまもあくまで脇である。まだ「デキタテ、ノムカ」以前の。遠い昔の話。結婚式場から逃げだした、シゲタ達がオープンカーに乗って、広がる雄大な大地を駆け抜けていった。

 安野モヨコ先生、畢生の傑作、『ハッピーマニア』は、草森紳一、氏の御蔵書の中に、文庫版で全巻発見されている。本書『シュガシュガルーン』第1巻(安野モヨコ講談社、2004年)もまた。奥付を見ると2005年11月の第8刷である。TVアニメ版『シュガシュガルーン』(テレビ東京)が日曜朝に放送されていたのも、そのころだ、と思う。これまた、原作より、濃い展開であったような。
 魔界の女王の座を賭けて、勝ち気な魔女っ子少女ショコラと、気の弱い、心優しい魔女っ子バニラが、日本の小学校に降り立つ。男子の恋するハートをたくさん手に入れた方が勝ち。しかし、地味なバニラが、じつは。
 連載中のマンガ、をTVドラマやアニメにするとき、現状では、どんな人気作品でもまずは3ヶ月、6ヶ月、長くて12ヶ月のまとまりにまとめ上げねばならないはずだ。いわゆる「クール」である。古くは『サザエさん』(長谷川町子、姉妹社、フジテレビ)、『ドラえもん』(藤子不二雄小学館テレビ朝日)。近くは『ケロロ軍曹』(吉崎観音角川書店テレビ東京)と、そんなしばりに表面上関係がない、大人気作品もある。しかし、子ども向け巨大「商品」である以上、何か起きたときのために。少なくともクール単位で自然に「強制終了」できるように設定されている筈である。また低視聴率に備えて、長くても1年で結末を迎えることができるように「初期設定」されていたのではないか。
 上記の各作品の、もう使われることのないであろう、幻の「最終回」設定。その周辺をめぐる、子どもたちの思いは、さまざまな都市伝説のパン種の一つ、ともなったのではないだろうか。
 もし、「あの」作品が普通に終わっていたら。今もなおパチンコ台から携帯、USBメモリーまでを彩る、紅い目をした少女は、もうきっと忘れ去られていたのかもしれない。
 子どもたちがパンをくわえて、遅刻寸前の学校に走る、もう一つの世界。子どもたちが敵との果てしない戦いに明け暮れる物語世界、そんな二つの世界が最後に、突然、交わり、平面になり、一本の線となって、消えていった。

その先は永代橋 白玉楼中の人