軍艦を初めとする、軍事関係の名称には、史実や、考え方を反映した、それなりの決め事があり、興味深い。例えば、アメリカ陸軍のヘリコプター(編成の流れとしては騎兵隊の流れを汲む)などは、型番以外に、なぜか、イロコイ(UH-1、汎用)、チヌーク(CH-47、大型輸送)、アパッチ(AH-64、攻撃)など、北米先住民族の名が「愛称」として付けられていた。また米軍空母艦載機にはワイルドキャット(F4)、ヘルキャット(F6)、トムキャット(F14)と「愛称」が与えられ、猫たちが大空を舞うことになった。このへんの論理は「隼」、「疾風」などと比べると実に理解を絶している。ただ「雷電」あたり、お相撲さんを経由していることを考えると少し、迎撃戦闘機にしては重すぎた命名だった、ような気もする。
軍艦の正式名称になると重々しく、地名(日本海上自衛隊イージス護衛艦:こんごう、みょうこう、米国海軍原子力潜水艦オハイオ)、人名(米国海軍原子力空母ロナルド・レーガン、フランス海軍原子力空母シャルル・ド・ゴール)、あるいは抽象名詞(英国海軍軽空母インヴィンシブル)など、同形式の艦同士で、山、州、指導者などでくくったり。
<この檄文(勝海舟経由で明治元年に)を提出した榎本(武揚)は、八月二十日午前四時、「開陽」「回天」「蟠龍」「千代田形」の四艦と、「咸臨丸」「長鯨丸」「神速丸」「美嘉保丸」の輸送艦をひきいて品川沖を脱出して江戸湾口にむかった>(本書、p.20、より) 対する、新政府軍の旗艦は「甲鉄」。
抽象度が増すほど大きな艦、という感じを受けるが、それ以上は漢籍に暗い当方の読解力を超えている。
この新鋭旗艦「開陽」を不運な事故で失いつつも、新政府軍への決死の抗戦を挑む、「回天」率いる、榎本艦隊を描いた本書。江戸時代の薩摩藩の小島に、漂着した、「異人」の「牛肉」への執着がもたらす悲劇を描いた短編「牛」も収録されていて。こちらも味わい深い。