崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

青年。

 昔も今も。親の目を憚る、ごみ、というものはある。とっぷりと日も暮れた、塾帰りのガキどもは、そんな古雑誌を求めて、裏山や公園の茂みに連れ立って、「探検」に出かけたものだ。必ず、いろいろな「収穫」があった。多くはきっちりと、束ねられた、それらを解いて、分配して。しっかり確かめる余裕もなくショルダーバックに押し込んで、急いで自転車を漕いで部屋に帰るのだ。
 当方の「ヤングジャンプ」(集英社)との出会いもそんなものだった。下っ端だったので、「水着があるよ」、「『俺の空』(本宮ひろ志先生)載ってるし」との甘言にもほだされて、なんとなく、一番「薄い」のを選んでしまったのだ。
 確かに表紙には蠱惑的な水着姿の美女。しかし中身は。いきなり『キャンパス・クロッキー』(八潮路つとむ先生)。悶々たる世界が広がっていた。『ネコじゃないもん!』(矢野健太郎先生)は今思うと、高橋留美子先生の作品世界と並行していたのだろうか。なぜか、全体に関西色、今になって思えば、大阪芸術大学、および、あの小池一夫先生、主宰の「劇画村塾」の色彩がにじみ出ていたような。至極まっとうなマンガ雑誌だった。当方の青年誌とのつきあいは、それから二十年以上続いた。今では専ら蕎麦屋だけでのつきあいだが。

 草森紳一、氏の御蔵書中の、本書『めーてるの気持ち』(奥浩哉先生、週刊ヤングジャンプ連載、全3巻、2007年)。とある孤独な青年の前に、突如現れたうら若き義理の母にして未亡人、表紙掲載の美女。この美女が彼と、一つ屋根の下、一緒に住んで面倒を見てくれることになるのだ。ご存じの方はご存じであろう、ヤンジャンの得意中の得意、お家芸とも言える、「男の御都合」を中心にぐるぐる回る、物語展開であるかのように思える。
 ただしフェチシズムのベタ化に大きく貢献した『変』、決断主義の先取りとも呼びうる、『GANTZ』などの傑作をものした奥浩哉先生のこと。コマのところどごろに現れるさりげない「歪み」は、その物語軸をも、ひずませ、「御都合」の新たな地平を期待させてくれる。
 『めぞん一刻』(高橋留美子先生)が老人ホームの書架にあふれる日も近い。かつての青年たちはいま。どんな「御都合」を胸に潜ませて、日々をしのいでいるのだろうか。

その先は永代橋 白玉楼中の人