氏のテレビはかなり前から故障していた。直さないままだった。
しかし、映るうちは観ていた。
『en-taxi』(扶桑社)誌上にて、そうお答えになっていた、と記憶している。
今、ここにある、1923年制作の『バスター・キートンの恋愛三代記』(VHSビデオ:IVC版)。
封は、しっかりと、切られている。
バスター・キートン氏。笑わない。美しい無表情。
そして、モーニング娘。とステージで『ザ☆ピース』を見事に踊り切った頃のナインティナインの岡村隆史氏よりも、はるかに「動ける」、最強のコメディアンだった。
諸家のご意見を総合すれば、米国喜劇映画の最初期の「御三家」は、彼と、ハロルド・ロイド氏、そしてチャーリー・チャップリン氏ということになる。ハリー・ラングトン、または、ロスコー・アーバックル氏をこれに加えて「四天王」とする方々もいる。
30数年ほど前には、彼らの名作の数々は、『ぴあ』等の情報誌でも正確にはフォローできていなかった不定期上映、そして先達たちの記憶を頼りに、「味わう」しかなかった。このキートンの作品一つをとってもそうだ。
『篤姫』DVD-BOX予約広告が新聞紙上を早々と飾り、オーソン・ウェルズ氏主演・監督の『市民ケーン』は500円でスーパーに並ぶ。「よゐこ」の有野晋哉氏の『ゲームセンターCX』もDVDになるという。
このビデオはもう。かさばるというだけで。普通のオークションなら、引き取り手などないだろう。
テラバイトが、当たり前の今では、何でもずっと小さな板や箱の中に録っておける。
ふと思うのだ。
記憶することを忘れ、忘れることを忘れてしまう。これはもう立派な「病」なのでは?
キートン氏の最後の出演作品は、ビートルズ主演『HELP!—四人はアイドル』の監督を務めたリチャード・レスター氏の手になる、1966年制作の『ローマで起った奇妙な出来事』。丘に向かって、無表情のキートン氏が走りだすシーンを観ることができる、そうだ。