11月28日、さて今日はどの箱を開けようかと700箱を越える段ボールの山を眺める。目録作りに協力している人たちは、作業日の、好きな時間に倉庫に来て、興味のある箱を開ける。これまで私は「歌舞伎・能」「神話・宗教」「広告・メディア」の箱をやってきたので、今日は「写真集・写真論」をやりたいなと思った。このジャンルは13箱あるはずで、開けて見ないと中身は分からない。
箱から本を取り出す。ヌード写真ばかりの『月刊 ザ・テンメイ』(加納典明・写真、竹書房)があるかと思えば、欧文が併記された豪華『日本の料理』(大倉舜二・写真、セシール)も。
B4変型の緑色の表紙に目を奪われた。雪の上に静かに横たわったシカの写真。『死』と題された宮崎学の写真集だ。表紙を開くと扉のところに、草森さんの蔵書印がドカンと押されていた。ほとんど目にしない蔵書印に一瞬胸を突かれる。
「俺は、山に入って死ぬよ」。草森さんの言葉が、突然思い出された。
「この本に魅かれて言ったのかしら」、入力に集中していた円満字さんに思わず言うと、「先生は本という山の中で亡くなられたのだと私は思っていますけれどね」手を休めずに彼は応えた。
あの門前仲町のマンションに積み上げられた蔵書の山、山、山……そうだ、草森紳一は古今東西の物語の風が吹く深山のなかで息を引き取ったのだ。物書き稼業だけは生きるための手段だったが、従属し、されることを拒絶し、山の獣たちと同じように自由に生きることを欲して、自分の望むように生きたのだった。