『ナンセンスの練習』『円の冒険』『写真のど真ん中』……。草森紳一という人は、タイトルの付け方がうまかったなあ、と思う。
書籍編集者をやっていると、タイトルというのは、書籍のほとんど全てなんじゃないかと思うことがある。タイトルだけで売れる本、タイトルのせいで売れない本。そんな本がいっぱいあるんじゃないか、などと。勤めていた出版社の企画会議でも、タイトルの話ばっかりしていたような気がする。
角書きに「耽綺快譚集」とある。なにやらそれっぽい雰囲気がする。
著者は、西川満(1908〜1999)。直木賞の候補になったこともある作家で、詩人でもある。こだわりぬいた造本で自著を限定出版したことで、愛書家の世界では有名らしい。もっともこの本は、もう少し若いころ、1955年にあまとりあ社から刊行された短編小説集である。
表題作だけ、読んでみた。世界で一番美しい女性たちが住むという、トルコのウスクダという町へ出かけた男たちが遭遇する、女難の物語。艶笑小説、とでもいうのだろうか。少なくとも、露骨なエロ小説ではない。妄想、敗れたり。
例によってネットで検索してみると、いくつかの古書店でヒットしたから、そんなに貴重書というわけではない。でも、国会図書館や都立図書館、大学の図書館などには、所蔵されていないようだった。
よっぽどの発禁モノならともかく、この程度の小説でも、公立図書館にはなじまないのだろうか。
そういう本をもすくい上げているところに、個人の蔵書のおもしろさがある。そう考えると、この世の中に星の数ほどあるはずの個人の蔵書が、それこそ輝きだして見えてくるのだった。