崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

『ハチミツとクローバー』のシール。

 御蔵書の中には、限定「1部」というものもあった。
 学生街を思い起こさせる、詩などの同人誌もある。
 学生街。今では、TVドラマなどで振り返るだけだ。
 成宮寛貴くん出演の『ハチミツとクローバー』の「ゼロ年代」、透明な風景よりも、坂口憲二氏、倍賞美津子氏の『東京タワー』の80年代、四畳半生活の方に、当然、近しさを覚える。同じあの美大が舞台だという。



 新古書店チェーンの。あの値段シールが貼られたものも散見される。第一印象ではマンガ本が多い。美術館の古い図録や古い文庫本など、新古書店の窓口ではねられずに、よく、ここまでたどりついたなあ、という感慨を覚えるものもある。

 御蔵書整理に携わっていて、このシールの持つ意味に気づかされた。
 草森紳一、の蔵書と言ってもすべてが、氏が自分から「読みたい」と思ったり、必要に迫られて、購入されたものとは限らない。お立場上、数多くの献本があったはずである。
 その中には、「開く気もしない」という書物もあったかもしれない。 
 このシールがある本は少なくとも。
 ご自分で「読みたい」と思って購入された本である。
 そして、早くとも90年代後半、新古書店チェーンの都内展開期以降に購入された本である。
 書店のイメージを変え、国道沿いの新たな風景となった新古書店。最大手は洋書販売にも進出したという。
 それでも、やっぱり、氏にとっては、本屋は本屋であり。あくまで本屋に過ぎなかったのだろうか。

 御蔵書の中の『ハチミツとクローバー』羽海野チカ作、集英社)に。
 そのシールは貼られていたのだろうか?

 一枚のシールの存在を、想像してみる。
 そして、そのシールから、想像する。 

 >ある新古書店で、その子は『ハチクロ』を毎日立ち読みしていた。
 ある日、棚を見ると。読もうと思っていた『ハチクロ』が売りきれてしまっている!まだ読み終わってないのに。安くなるのを待ってたのに!がっかりして、帰路、自転車を飛ばすのだ。通行人と危うくぶつかりそうな勢いで。追い越された、その人は、少し、歩みを早めた。
 黄色いレジ袋がかさりと鳴る。<
  

その先は永代橋 白玉楼中の人