御蔵書の中には、限定「1部」というものもあった。
学生街を思い起こさせる、詩などの同人誌もある。
学生街。今では、TVドラマなどで振り返るだけだ。
成宮寛貴くん出演の『ハチミツとクローバー』の「ゼロ年代」、透明な風景よりも、坂口憲二氏、倍賞美津子氏の『東京タワー』の80年代、四畳半生活の方に、当然、近しさを覚える。同じあの美大が舞台だという。
御蔵書整理に携わっていて、このシールの持つ意味に気づかされた。
草森紳一、の蔵書と言ってもすべてが、氏が自分から「読みたい」と思ったり、必要に迫られて、購入されたものとは限らない。お立場上、数多くの献本があったはずである。
その中には、「開く気もしない」という書物もあったかもしれない。
このシールがある本は少なくとも。
ご自分で「読みたい」と思って購入された本である。
そして、早くとも90年代後半、新古書店チェーンの都内展開期以降に購入された本である。
書店のイメージを変え、国道沿いの新たな風景となった新古書店。最大手は洋書販売にも進出したという。
それでも、やっぱり、氏にとっては、本屋は本屋であり。あくまで本屋に過ぎなかったのだろうか。
御蔵書の中の『ハチミツとクローバー』(羽海野チカ作、集英社)に。
そのシールは貼られていたのだろうか?
一枚のシールの存在を、想像してみる。
そして、そのシールから、想像する。
>ある新古書店で、その子は『ハチクロ』を毎日立ち読みしていた。
ある日、棚を見ると。読もうと思っていた『ハチクロ』が売りきれてしまっている!まだ読み終わってないのに。安くなるのを待ってたのに!がっかりして、帰路、自転車を飛ばすのだ。通行人と危うくぶつかりそうな勢いで。追い越された、その人は、少し、歩みを早めた。
黄色いレジ袋がかさりと鳴る。<