御蔵書の中には、当方の「近過去」を思い起こさせる書物もある。
『町でいちばんの美女』。チャールズ・ブコウスキー著、青野聰訳。新潮社。単行本。
1994年3月20日初版。ピンクの付箋が一枚貼られた御蔵書は、1996年9月30日の第16刷。当時、本書を青山ブックセンターあたりで見かけて、迷って買わなかったような、記憶がある。2年半で。16刷。少なくとも5ケタは売れていたのである。
小沢健二氏、はじめ「渋谷系」の残照がまだ残っていた時期にあたるのだろう。『行け!稲中卓球部』(90年代中期『ヤングマガジン』連載)にもよく似た人物が顔を見せていた、小山田圭吾氏は、今年、グラミー賞にノミネート、とのことである。
あのころ。ジャン・リュック・ゴダールの諸作品上映で、渋谷の映画館が満員になっていたのは、記憶に残っている。「ゴダール」で充分、ささやかな商売が成立していた。
本書を開いたがいいが。ヘンリー・ミラー(『南回帰線』)を濃くして、「実写版」にしたような字面で疲れ果て、中途でページを閉じた。
そのころ。当方は、連載中の『中国文化大革命の大宣伝』を、お目当ての一つとして、『広告批評』を購読していたはずだ。
当時の青山ブックセンター、とブコウスキーを結ぶ線は「定番」だ。
『広告批評』とブコウスキーをつなぐ線、も充分にあり、だろう。
しかし、『文化大革命の大宣伝』と取り組む50代後半の「もの書き」と『町でいちばんの美女』を結ぶ線。見えない。惹かれる。
が、もとより、遙かに見えない稜線である。
チャールズ・ブコウスキー。1920年ドイツ生まれ。1994年3月9日。ロスアンジェルス近郊の港町、サンペドロにて。逝去。