蔵書の整理をしようとすると、目録作りは必須だ。一度積み上げた段ボール箱を再び開けながら、その作業に取りかかったのは9月の終わりのことだった。
1冊1冊を箱の中から取りだして、書名・著者名・版元名・刊行年を入力していく。そのためには、本の奥付——1番最後の方にある、そういった情報がまとめて載っているページ——を見ていくことになる。仮にも編集者のはしくれだから、奥付には親しんでいるけれど、こんなにまとめて目を通すのは、初めてのことだ。
そうやって眺めていると、奥付にもいろいろあるなあ、とつくづく感じ入る。
たとえば、1949(昭和24)年に日本交通公社出版部から刊行された辰野隆編『酒談義』という本がある。辰野隆はフランス文学者、他には俳優・文筆家の徳川夢声、タレントでコレクターとしても知られた石黒敬七などが執筆者として並んでいる。「世界の酒豪」「東西酒合戦」「酒と税」といった、酒好きでなくともちょっと読んでみたくなるような文章を収めているが、だれがどの部分を書いたのかは、明示されていない。「日本の古本屋」で検索してもたいした値段は付いていないから、さして珍しいものでもないのだろう。
敗戦直後、あらゆる物資の窮乏に耐えていた時代。これを見ながら、全国銘酒行脚を夢見た酔っぱらいが、たくさんいたんだろうなあ。
そして、極めつけが、奥付に「銘酒大福引券」が付いていること。酒飲みたちの究極の夢——タダ酒の可能性をも、この本は提供しているのだ。
いま、ぼくたちが携わっている本作りは、だれかにそんな「夢」を提供できているのだろうか。