崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

苦い青春の記憶

 誤植とは、怖ろしいものである。
 どれだけ一生懸命、丁寧に校正をしたつもりでも、誤植はどこかに必ず残ってしまう。できたてほやほやの本を喜び勇んで開いたとたんに、誤植が目に飛び込んでくることも、多いのだ。
 どうして気づかなかったんだろう? あれだけ見たはずなのに!
 だから、編集者同士では、誤植についてはあまり厳しくは言わない。他人が担当した本で誤植を見つけたら、けっして騒がず、機会を見つけてこっそりやさしく教えてあげるのが、仁義というものだ。
 ただし、ものにはTPOがある。絶対に誤植を出してはいけないところが、あるのだ。
 それは、たとえばタイトルであったり、著者名であったり、目次であったり、奥付に載っている自社の社長の名前であったりする。そういった個所は、誤植を出さないために入念にチェックするのが、編集者の常識である。
 ISBNコードも、その1つだ。ISBNコードとは、世界標準の書籍のID番号。日本国内で出版される書籍には、原則としてこのコードを付して、目立つところに明示しなくてはならない。出版社の倉庫、取次(問屋)、そして書店などでは、このコードによって商品の流通を管理するからである。
 だから、ここに誤植を出すと、流通方面にえらくご迷惑をおかけすることになる。
 今回の目録を作るためにも、このコードを利用している。すでにぼくは、何千冊ものISBNコードを見ていることになるのだが、これだけの数になると、中には、あわれ、誤植が残っているのを見つけることも、ある。



 そのうちの1つが、写真である。書名や出版社名は、記さないでおくこととしよう。「ISBN4-****-1238」までがコードの本体で、その後に、1桁のチェックデジットが付く。それが、帯ではアルファベットの「I」になっているが、チェックデジットにはIなんて用いられない。その下に写っている、カバーに記されたコードと比較すればわかるとおり、これは数字の「1」の誤植なのだ。
 ああ! この本の担当編集者は、上司に怒られたろうなあ。
 こう書きながら、ぼくが思い出すのは、著者名に誤植を出して大あわてで平謝りに謝った、苦い苦い青春時代の記憶……。

その先は永代橋 白玉楼中の人