誤植とは、怖ろしいものである。
どれだけ一生懸命、丁寧に校正をしたつもりでも、誤植はどこかに必ず残ってしまう。できたてほやほやの本を喜び勇んで開いたとたんに、誤植が目に飛び込んでくることも、多いのだ。
どうして気づかなかったんだろう? あれだけ見たはずなのに!
だから、編集者同士では、誤植についてはあまり厳しくは言わない。他人が担当した本で誤植を見つけたら、けっして騒がず、機会を見つけてこっそりやさしく教えてあげるのが、仁義というものだ。
ただし、ものにはTPOがある。絶対に誤植を出してはいけないところが、あるのだ。
それは、たとえばタイトルであったり、著者名であったり、目次であったり、奥付に載っている自社の社長の名前であったりする。そういった個所は、誤植を出さないために入念にチェックするのが、編集者の常識である。
ISBNコードも、その1つだ。ISBNコードとは、世界標準の書籍のID番号。日本国内で出版される書籍には、原則としてこのコードを付して、目立つところに明示しなくてはならない。出版社の倉庫、取次(問屋)、そして書店などでは、このコードによって商品の流通を管理するからである。
だから、ここに誤植を出すと、流通方面にえらくご迷惑をおかけすることになる。
今回の目録を作るためにも、このコードを利用している。すでにぼくは、何千冊ものISBNコードを見ていることになるのだが、これだけの数になると、中には、あわれ、誤植が残っているのを見つけることも、ある。
ああ! この本の担当編集者は、上司に怒られたろうなあ。
こう書きながら、ぼくが思い出すのは、著者名に誤植を出して大あわてで平謝りに謝った、苦い苦い青春時代の記憶……。