段ボール箱を開けて本を取り出し、1冊ごとに書誌情報をチェックしていく。タイトル・著者名・出版社名は、たいていカバーや表紙に記されているものだが、出版年は奥付を見ないとわからない。
函入りの本だと、函から本体を出してやる必要がある。こいつは、ちょっとした手間だ。また、古い本の場合、出版社名・著者名はおろかタイトルでさえ、外見だけでは判断できないことも多い。勢い、あっちこっちとひっくり返して見なくてはならないことになる。
そうやって何冊も何冊もの本を手にしては、開いては閉じ、開いては閉じをくり返す。
本には、ほこりが付きものだ。
1時間も続けると、手が真っ黒になる。そんな両手を使って、書誌情報を入力していくのだから、パソコンだって、ほこりだらけになろうってものだ。
「アルカリ電解イオン水使用」と銘打った、OA機器用のウェットティッシュを使って、主にキーボードをふいていく。特に、キーとキーとの谷間の汚れを取るのが、たいへんだ。
朝のやわらかい光の中で、せっせと手を動かしながら、草森紳一という人は、いわゆる「愛書家」ではなかったんだろうなあ、などと思う。
ご自身の著作を見ると、組み方や装幀にかなりこだわっていらしたのが、よくわかる。でも、そうやってできあがった本を、大事に、きれいに取っておこうという気持ちは、さらさらなかったらしい。
本というものは、積み上げて放っておくと、どんどんほこりを身にまとい、汚れていく。その「自然法則」に逆らったって、しかたないのだ。
「そういうものだよ。それが無為自然の道ってものじゃあない?」
そうおっしゃって、独特のホホホという笑い声を立てる痩身白髪の先生の姿が、目に浮かぶような気がする……