崩れた本の山の中から 草森紳一 蔵書整理プロジェクト

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

「最後の文人」草森紳一は、2008年3月東京の自宅マンションで急逝しました。自室に遺されたのは山と積まれた3万冊余りの本たち。このブログでは、蔵書のその後をお伝えします。

ほこりだらけのキーボード

 段ボール箱を開けて本を取り出し、1冊ごとに書誌情報をチェックしていく。タイトル・著者名・出版社名は、たいていカバーや表紙に記されているものだが、出版年は奥付を見ないとわからない。
 函入りの本だと、函から本体を出してやる必要がある。こいつは、ちょっとした手間だ。また、古い本の場合、出版社名・著者名はおろかタイトルでさえ、外見だけでは判断できないことも多い。勢い、あっちこっちとひっくり返して見なくてはならないことになる。
 そうやって何冊も何冊もの本を手にしては、開いては閉じ、開いては閉じをくり返す。
 本には、ほこりが付きものだ。
 1時間も続けると、手が真っ黒になる。そんな両手を使って、書誌情報を入力していくのだから、パソコンだって、ほこりだらけになろうってものだ。



 ぼくの愛機は、アップルのノートパソコンMacBook。白く輝く本体が魅力のこのマシンも、ごらんの通りのありさまとなる。この作業を始めて以来、日曜日の朝にはまず愛機の掃除をするのが、習慣になった。それでも汚れが気になるから、年末の一日、あらためてじっくりと掃除にとりかかる。
 「アルカリ電解イオン水使用」と銘打った、OA機器用のウェットティッシュを使って、主にキーボードをふいていく。特に、キーとキーとの谷間の汚れを取るのが、たいへんだ。
 朝のやわらかい光の中で、せっせと手を動かしながら、草森紳一という人は、いわゆる「愛書家」ではなかったんだろうなあ、などと思う。
 ご自身の著作を見ると、組み方や装幀にかなりこだわっていらしたのが、よくわかる。でも、そうやってできあがった本を、大事に、きれいに取っておこうという気持ちは、さらさらなかったらしい。
 本というものは、積み上げて放っておくと、どんどんほこりを身にまとい、汚れていく。その「自然法則」に逆らったって、しかたないのだ。
 「そういうものだよ。それが無為自然の道ってものじゃあない?」
 そうおっしゃって、独特のホホホという笑い声を立てる痩身白髪の先生の姿が、目に浮かぶような気がする……

その先は永代橋 白玉楼中の人